ターゲット

気怠げに、寝返りを打つ。
シーツの冷たい部分に肌が触れて少し気持ちが良かった。
まだ起き上がりたくない。
ベッドの上からでも、もう日が昇ったことはわかるけれど、クラウドは起き上がりたくなかった。
ギリギリまで寝ていたい。
そんな彼の望みを打ち消したのは、一人の男だった。
「そろそろ起きろ」
「…まだ寝ていたいのに」
男もさっきまで一緒にベッドにいたはずなのに。
クラウドは恨めしそうに男を見た。
「お前にやってもらいたい仕事がある」
「…仕事?俺に?」
クラウドは身体を起こして、傍らに置いてあったペットボトルの水を口に含んだ。
「お前しかできない仕事だ、クラウド」
「……とか言って、また相手側の弁護士を誘惑してこいとか言うんだろ」
クラウドは再度水を飲もうとした。
けれど、動かした手は男に捕らえられた。
男は水を自分の口に含むと、それをそのままに、クラウドに口づけた。
「んっ…」
コクと小さくなるクラウドの喉。その喉を男は撫でた。男の大きな手で、片手で簡単に絞めることができるほど細い首に、男はそのまま舌を這わせる。
「ちょ…水ぐらい自分で飲める」
「お前に意思など必要ないだろう?」
男は囁く。
「この男だ」
そしてクラウドに1枚の写真を見せた。
「…やっぱり。こいつは弁護士?原告?誘惑して自滅を誘うの?有力な証拠の隠滅をしてもらうの?それともアリバイを崩すように仕向けるの?」
今までやらされてきた事をつらつらと言いのける。どれをさせる気か、と。
「全てハズレだ」
「ハズレ?」
「こいつは弁護士だ。それもかなり優秀だな。お前の仕事はこの男の仕事ぶりや、現在の状況、人脈そしてこれからの動向を調べてきてほしい」
サラっと言いのける男。
「調べてって…どうやって?俺はそんなことやったことな…」
言い終わるまでに、クラウドの口を塞いだ男の長い銀の髪をクラウドは引いた。
「お前にはコレがあるだろう?」
ツツツ…と指でクラウドの身体を撫でる。
「ぁ…」
「時間はたっぷりとやる。上手くやってこいつの近くで生活でもしてろ。3日に1回、業務連絡を必ずしてこい」
わかったな、と念を押す。
「……見返りは?」
「ほう…主人に見返りを求めるつもりか?」
男の目は楽しそうに細められていた。
「たまには反抗してほしいくせに」
「クク…お前には飽きないな。そうだな…この男を仲間に引き入れることが出来たその暁には、お前を解放する、というのはどうだ?」
グイッとクラウドの身体を抱き寄せる。
「解放?それ本当に言ってるの?」
「あぁ…お前がそれを望むのならな」
「………わかった」
「上手くやれ。必要経費はこれを使え」
クラウドに手渡されたのは、ブラックカード。
「現金が必要ならこっちから引き出せ。番号はお前の誕生日にしてある」
そして銀行のカードと通帳も渡された。
「コレ持って逃げちゃうかもよ?」
クラウドはニヤリと笑う。
「私からは逃げられん。…逃がす気もない。お前が一番よく知っているだろう?」
男は出て行った。
ポスンとベッドに腰掛けるクラウドは、男が置いていった写真と簡単に書かれたプロフィールに目を通した。
「レオン…」
凛としながらも、優しい雰囲気が漂う男。
強い意志を感じられる瞳。
惹かれてやまない、何かをもっている。
クラウドはその写真を抱きしめた。
そして、ベッドから降りた。
素早くシャワーを浴び、身支度を整える。
男から手渡されたカードらはベッドに置かれたまま。
クラウドはレオンという弁護士の写真だけを持って、部屋を飛び出した。

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