猫の正体

大声で呼ぶなと何度も言ってきた。
けれどそれは無意味なことなのだと、逆にスコールは学習した。
「スコール!」
「…なんだよ」
少し怒気をはらんだ声で答えるも、ティーダは全く気にしていなかった。
「今日さ、スコールん家行きたい」
「却下」
「俺も行く!」
どこから湧いた…
うなだれるスコールの正面にはヴァンが立っていた。
「今日ならいいってスコールが言ったんだぜ?」
「…俺が?」
ティーダに言われ、頭の中の記憶を再生する。
「日曜日ならいいと言ったはずだ」
「日曜日部活の試合があるから部活がない日の学校帰りでってちゃんと言ったっスよ!」
忘れたんスか?!とティーダが怒りながらも悲しそうに言う。
確かに次の金曜日は仕事が早く終わるから早く帰ってこれると言っていたはずだからこの日なら、と了承した覚えが確かにあった。正直まじで面倒臭い。帰ったら食事の準備もしなければいけないのに。
けれど、レウァール家では嘘はついてはいけないと、教えられてきた。それが例え誰かを守る為の嘘でも、誰かを陥れる為の嘘でも、嘘はダメだと。
スコールは渋々首を縦に振った。


ーーーーー


「あれ?」
家に入った矢先、広いリビングに置かれた見るからに高級そうなソファに寝転っていたクラウドが読んでいた本から顔を上げて3人を出迎えた。
スコールよりも先に後ろにいたティーダとヴァンが反応した。
「スコールのお友達っスか!?」
「なんか…綺麗な人だな」
何事?とクラウドがスコールを見遣れば、学校の友達がクラウドに会いたがってたから連れてきた、と話す。
「俺に?」
「手土産もある」
スコールはそう言うとティーダたちを呼んだ。
「ティーダ」
「っス!俺ティーダっス」
「俺はヴァンです」
「あ、…クラウド、です」
二人の勢いに気圧され、クラウドは瞳をぱちくりさせていた。
「これつまらないものですが」
「なんか大好物って聞いたんスけど…どこにいるっスか?」
二人が辺りをキョロキョロ見回して、おーいとか猫ちゃーんと呼んでいた。
「…何の話だ?」
コソッと聞いてくるクラウドにスコールが返す。
「クラウドのことを猫か何かだと勘違いしてる、かもしれん」
「猫?」
「俺が…レオンが拾ってきたって言ったから…」
すまない、と。それを言う前にクラウドに頭を撫でられた。
「あんまり変わらないから」
クラウドは立ち上がり猫を探している二人に向き直った。
「スコールの友達なんだよな?」
「そうっスよ!」
「なんか超美人な猫がいるらしいって聞いて、見にきたんだけど…」
「機嫌が悪いと出てこないかもって言ってたっスから、機嫌が悪いんスかね…」
ティーダの言葉を聞いた途端、クラウドがスコールを睨んだが、スコールは知らないフリをした。
「せっかく大好物なシュークリーム持ってきたのに…」
ヴァンが手にしていた箱に目をやるのと同時に、クラウドがその箱を取り上げた。
「うん、これ、俺の大好物」
「へ?」
「これって…クラウドさんも好きだったんスね!」
「さんはいらないよ。というか、俺が猫だよ」
は??
二人の頭にクエスチョンマークが浮かび上がった。
「クラウドを、レオンが拾ってきたんだ」
「にゃぁ」
猫の真似をするクラウドに、二人は赤面した。そんな仕種が可愛らしくてクラウドは小さく笑った。
「俺はスコールの兄でもないし家族でもないし、ましてや猫でもないけど、…スコールは大切な人だから、これからも仲良くしてやって」
ぽん、ぽんと。
それぞれの頭に手をおいて、そしてクラウドはにゃぁと鳴いた。
「お望みとあらば猫プレイしてあげてもいいよ」
クラウドはそう言うと、シュークリームありがとうと言って部屋から出て言った。
ぽーっと二人はクラウドが出て行ったドアを見つめたまま固まっていた。
そしてスコールはというと、手を顔に当てていた。その顔は真っ赤になっていた。
大切な人。
言われたのは初めてだった。恐らくクラウドに他意はないだろう。けれど、スコールは嬉しかった。今日の夕飯はクラウドの好物ばかりにしよう。
そう思っていた、瞬間、肩をぐいっと後ろに引っ張られた。
「スコール!!」
「なんだあの美人は!?」
「は!?」
ティーダとヴァンから質問攻めに合うスコール。
忘れていた。二人がいたことを。興奮冷め遣らぬ二人はガクガクとスコールを揺さぶる。やっぱり会わせたくなかった。
「猫ってなんスか!?猫プレイって!?」
「なぁ!クラウドさんてフリー?!」
「あー!ヴァン抜け駆けはずるいっス!!」
「お前はユウナちゃんがいるだろうが!ここは俺に譲れよ!」
スコールは何度目かわからない溜め息を吐いた。



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