冷たい雨

空は分厚い雲に覆われていて太陽を見ることはできない。季節の割に冷たい雨が地面を濡らしていた。ぼんやりと窓の外を見ているクラウドに、レオンも一緒に外を見た。
「お前を拾ったのもこんな日だったな」
今日よりも雨はもっと冷たかった。晩秋の底冷えする寒さの中、膝を抱えたまま雨に打たれてクラウドを見つけた。体の芯まで冷えきっていて、風呂に入れながらブランデー入りのホットミルクを飲ませてようやく頬に赤みが差してきたのにホッとした。
「俺が拾わなかったら肺炎になっていたかもな」
「大丈夫だよ」
クラウドは立ち上がるとコートを羽織った。
「そうか?」
家出にしても財布も携帯電話も持たずに計画性がない。どうするつもりだったのかと聞いて後悔する羽目になった。
「こんな見てくれだからさ、一晩くらい泊めてくれるオッサンならたくさんいるよ。気前が良ければお金もくれるし」
「クラウドっ!」
それは…と想像して吐き気がした。見ず知らずの誰かが軽い気持ちでクラウドを蹂躙するなどあってはならない。たとえそれがクラウドに見返りがあることだとしても。
「何?」
「あ…いや。拾ったのがスケベ親父じゃなくて良かったな」
「ああ。感謝してる」
中には首絞めたりして悦ぶ奴もいるしなあと回想するクラウドに身震いした。頸動脈洞性失神、いわゆる落ちる瞬間は膣が収縮して挿入する側に快感を与えるのだという。それが直腸ではどうかは知らないが、そういうことをする輩がいるということは同じなのだろう。自分が快感を得るために相手を危険な目に遭わせるなど許されない。
今までどんな経験をしてきたのか、レオンには聞く勇気がなかった。クラウドが言うように体を売って食い繋いできたとしても咎めることではない。出会う前のことだが何もしてやれなかったことに申し訳なくなるだけだ。
事務所を出て行こうとするクラウドの腕を掴む。このまま出ていかれたらもう戻って来ないだろう。
「…どこへ?」
「郵便を出しに」
「そんなのは後でいい」
もっともな理由だったが手を放せなかった。レオンが放すつもりがないと分かるとクラウドは封筒を机の上に置いてコートを脱いだ。そしてレオンに向き直って両腕を首に回した。
「なあ…何で俺を拾ったんだ?」
「それは…雨に打たれて寒そうだったから」
「それだけ?」
本当にそれだけだった。無責任な話だが拾った後のことは考えてなかった。ずっと家に置くことになるとは思っていなかった。ましてや開業することになるなんて。
「女にしか勃たない訳じゃないなら、俺を使ってもいいよ?」
「何を…」
そんな目で見たことはなかったが、言われてみればクラウドは確かに艶があるというかかなり危うい。だが素直に性的対象となるよりも加虐心を煽るタイプだ。そういう嗜好がないレオンも引きずり込まれそうだ。
「そういうことをするためにお前を拾ったんじゃない」
レオンはクラウドの両肩を掴むと引き剥がした。これ以上目を見ていたらクラウドに無理強いしてきたオヤジ達と同列に堕ちてしまう。くすり、とクラウドが笑う。
「ありがと」
大好きだよとクラウドが背伸びをする。頬に触れた唇は柔らかかった。レオンは頬を押さえながら考えた。これは多分クラウドの試練だ。誘惑に乗った瞬間、クラウドはいなくなってしまうだろう。一度拾った責任感からではない。友人以上、家族とも違うしましてや恋人でもないが大事な人になってしまった。もうクラウドのいない世界など考えられなくなっていた。

[ 5/18 ]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -