hide out2

高速道路でバイクレースが行われているという情報が入ったのは数十分前だ。大規模な事故を防ぐため高速を閉鎖し随所に検問を張ったが易々と突破されたところでライトニングに出動要請が出た。バリケードが高く連なり緊迫感で息が詰まりそうな中、ライトニングは高速を逆走した。普通に追跡したのでは追い付くのは難しい、そう判断してのことだったが接触すれば命はない。自分の命が最優先だが、死者を出さずに事件を解決させなければならない。
無線がターゲットが近付いて来たことを知らせる。ライトニングはスピードを緩めた。この先はカーブだ。ターゲットもスピードを緩めるはず。その隙を何とか突きたい。
『ターゲット接近、1km先です』
ライトニングはバイクを降りて拳銃を構えた。やはり穏便に済ませるのは無理だ。多少荒くても事態の終息が優先事項だろう。
エンジン音が聞こえる。カーブで大分スピードが落ちていたのもあるだろう。先頭を走っていたバイクはライトニングを見つけるとブレーキをかけた。
「…?」
その不可解な行動にライトニングはいぶかしんだ。散々検問を強行突破しパトカーを振り切ってきたのだ。今さら白バイ一台に臆したとは考えにくい。おそらく女だと油断したのだろう。なら、それを後悔させてやる。
知らず口角が吊り上がる。だがバイクはライトニングのすぐ側で止まり、乗っていた人物がヘルメットを脱ぎ捨てて走り寄ってきた。
「お巡りさん助けてっ」
腰にしがみつかれて戸惑う。まだ青年とは言い難い、少年の部類に入る子供だ。拳銃を見ても怯えることなく真っ直ぐに向かってくる様子を見ると自分が撃たれるとは思ってもいないのだろう。それどころか助けを乞うとは一体何があったのだろう。
次いで二台目のバイクが少し通り過ぎた所で止まり、戻ってきた。
ライトニングは後ろで震えている少年を見た。きつく目を閉じてライトニングの背中にしがみついている。そして後続のバイクの人物を見た。ヘルメットを被っているので顔は見えない。だがギラギラした目付きで少年を睨んでいる。想像していた展開とは違うが犠牲者を出すことなく事態を終息させられそうだ。
バイクを乗り捨てた人物が体を引き摺るように不気味な動きをしながらこちらに向かってくる。息は荒くどこか焦点が定まらない様子に違和感を覚える。じりじりとにじり寄る男に怯えた少年が背中越しに息を飲んだのが分かった。
今まで勘が外れたことはない。今回も自分を信じてみよう。安全装置を外すとライトニングは躊躇いもなく男の左足を撃ち抜いた。
「ぎゃああぁぁぁぁっ」
耳を覆いたくなるような醜い悲鳴と共に男がのたうち回る。爪先で蹴り上げてヘルメットを飛ばすとどこかで見た顔があった。
その顔を見てびくりと肩を揺らした少年がライトニングにすがりつく。それでようやくこの騒動の発端を理解した。
「お巡りさん、俺を逮捕して」
「…だめだ」
「どうして?スピード違反したんだよ?」
ライトニングは無線で応援を呼ぶと男の腹を蹴り、少年の腕を掴んで歩き出した。
「お前、名前は?」
「…クラウド」
「クラウド、送って行こう。家族が心配しているぞ」
「家族なんていない」
急にクラウドが立ち止まる。ライトニングを見つめる顔は唇を噛み締めて、涙を堪えていた。
「逮捕してもらわないと…」
またあいつが来る。
ぽたりと涙が零れる。小さく呟いてクラウドは俯いた。
ぽたり、ぽたり。
涙が道路を濡らす。ライトニングはかける言葉も見つからず立ち尽くした。そうしてどれくらいの時間が経ったのだろう。ぐすりと鼻を鳴らしながらも腕で涙を拭い顔を上げたクラウドはぺこりと頭を下げた。
「わがまま言ってごめんなさい」
しゅんと視線を落とすクラウドは諦めたように見えた。手を伸ばしても誰にも助けてもらえない。それをあがきもせずに受け入れるクラウドはこの世の全てに絶望していた。
「クラウド…」
「大丈夫。手をね、こうしてぎゅっと握るんだ。奥歯を噛んで息を止めて終わるのを待てば何でも我慢できるよ」
胸の前で両手を握りしめ身を固くするクラウドは祈っているように見える。だがその祈りは誰にも届かない。
「ごめんなさい」
もう一度クラウドが謝る。抑圧されても声も出せずにただ受け入れるしかできない無力な子供にライトニングは腹が立った。正確にはクラウドにではない、クラウドにそうさせる周囲の環境に、だ。
サイレンを鳴らしながらパトカーが近付いてくる。到着した警察官に男の身柄を引き渡しクラウドをバイクの後ろに乗せる。そして向かった先は自分の家だった。

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