嘘と真実

『ちゃんとやれているだろうな?』
電話の向こう側で、男が探るような視線を寄越したような気がした。
「どういう意味?」
何について、やれていたらいいのだろうか。
『…生活はどうだ?食事は与えられているか?風呂は?睡眠は足りているか?』
「……毎日美味しいご飯食べて、ぽかぽかお風呂に入って、あったかい布団でぐっすりしてるけど」
まるで昔聞いたことがあるような歌のフレーズのようにクラウドは言った。
『ほう…。満喫しているようだな』
「あぁ」
心地良すぎて、心苦しくなるぐらいに。
『もう抱かれたか?』
クツクツと笑う声。
クラウドは受話器を睨みつけた。
「あんたじゃあるまいし、レオンはそんなことしない」
何度か駆け引きを仕掛けたけれど、そのいずれにもレオンは掛からなかった。
もちろん、スコールも。
なんの見返りもないのに、二人はクラウドを受け入れてくれた。
『フッまぁいい。本題だが、なんだこの報告書は』
パシと紙を叩くような音が聞こえた。
「スコールのレパートリー」
クラウドが報告書に記載したのは、食卓に並ぶ料理のメニューだったりレシピだったり…
『誰が食事内容の報告をしろと言った?』
「美味しかったから」
『……』
男は溜息をついた。
「なんだよ」
『いや…次からは食事の報告以外にターゲットの行動も記載しろ』
「…レオンの?」
『あぁ。それからお前の行動もだ』
「……なんで、俺のまで…」
クラウドは眉間にシワを寄せた。
『お前は私のものだということを忘れたわけではあるまい?』
「…」
『自由になりたければ……分かっているだろう?クラウド』
まるですぐ傍にいるような。
直接耳に囁かれているような男の声に、クラウドの身体がビクンと反応した。
「…わかった」
逆らえない。この男にクラウドは逆らえない。
男にとって自分は手駒の一つにすぎないと分かっている。
分かっているからこそ、敵にしたくない。
クラウドには甘い男だが、冷徹な男で有名である電話の主は、愉快そうにまたクツクツと笑っていた。
『次の報告も楽しみにしているぞ』
そう言って通話は途絶えた。
電話からはピーピーと音が鳴りテレフォンカードが出てきていた。
男への報告をレオンたちに知られる訳にはいかない。
故に、家の電話は使えない。
携帯は持ってこなかった。
クラウドは持っていた金でテレフォンカードを購入し、隣町の電話ボックスから電話をかけていた。
テレフォンカードを仕舞い、ボックスから出る。
クラウドのお腹がくぅと鳴った。
早く、帰りたかった。
レオンと、スコールがいるあの場所に。
帰れる身分じゃないと痛いほど分かっているけれど、報告をする度にそう思うけれど、もうかけがえのないものになっていた。
あの男には逆らえないけれど、レオンとスコールを守れるのは自分しかいない。俺に良くしてくれた二人に何が返せるだろうと、クラウドは瞳を閉じた。

小さな嘘が大きな嘘になっていく。
心にチクンとした痛みが増した。
どうかばれませんように。
まだ傍にいさせてください。
そう願わずにはいられなかった。



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