君子危うきに

珍しくクラウドが家にいる。ソファーに転がって本を読んでいる。機嫌はあまり良くない。原因はレオンに置いていかれたことだろう。
「スコール、学校は?」
学生の本分は勉強なんだから学校をサボるなとトゲのある言葉が刺さる。相当イライラしているらしい。
「今日は創立記念日で休みだ」
「…ふぅん?」
家にはいない方がいいと判断したスコールは問題集を鞄に入れた。図書館あたりに避難した方がいい。どうせレオンが帰ってくれば、怒りの矛先はそちらに向かうのだから。
「どこ行くの?」
「図書館」
出掛ける準備をしていると、どうしてもスコールの粗を探したいようで絡んできた。レオンの奴、置いていくなら事務所に置いていけよ、と思っても兄の気持ちも分かる。一人にするより誰か頼れる人がいればそちらに預けたい。
「…なあ」
「何だ」
クラウドはしばらく考えてからにっこりと笑いかけた。嫌な予感がする。こいつはたまにとんでもないことを言い出す。それを上手く回避できる自信はない。
「スコールは将来何になりたいんだ?」
「へ?」
「やっぱり弁護士?」
「あ、いや…」
「職場見学に行かない?」
目的はそれか。その程度なら逆らう気にもなれない。スコールは手にしていた鞄を置いた。
「どこに行くんだ?」
「裁判所」
案内してやるからな、とクラウドが嬉しそうに手を引く。スコールは黙ってその後を追った。
電車を乗り継ぎ知らない駅で降りる。他の建物に比べて堅苦しい作りに見えるのは気のせいだろうか。用もないのに気軽に中に入るのが躊躇われるほど荘厳だった。
それをるんるんと入り口に向かうクラウドは嬉しそうだ。そして本当に秘書の真似事をしていたのだと妙に感心してしまった。
「どうした?」
「何でもない。裁判所って初めてで」
雰囲気に飲まれたのだと思ったのだろう。クラウドは得意気に奥を指差した。
「こっちだ」
だが指差したドアからぞろぞろと人が出てくる。裁判が終わったのだろう。クラウドはああー…と言いながらがっくりとしゃがみこんでしまった。
「裁判見たかったのか」
「うん」
「何で?」
特殊なケースではない、どこにでもよくある刑事裁判だ。知り合いが関わっている案件でもないだろうに、どうしてそこまで拘るのだろう。
「だって仕事してるレオンってカッコいいんだもん」
クラウドがきっぱりと言い切る。頬を紅潮させて、弁護士として法廷に立つレオンを尊敬してるようだった。
ドアの方で大きい音がした。振り向くとレオンが手で口を覆って立ち竦んでいた。心なしか顔が赤い。さっきの話を聞いていたのだろう。
「あ、レオン」
嬉しそうにクラウドが駆け寄る。その様子を見てスコールは弁護士も悪くないと思った。
「結局来たのか」
「ダメだったか?」
「…いや」
レオンはスコールを見てため息をついた。どうやらここに来るのを阻止して欲しかったらしい。そんな目で見られても何も頼まれてはいない。スコールはふい、と顔を逸らせた。
「クラウド」
「あ、ライトニング」
向こう側から一人の女性が颯爽と歩いてきた。それを見てクラウドは笑い、レオンはがっくりと項垂れた。それでスコールは何となく察しがついた。レオンはこの二人を会わせたくなかったのではないだろうか。
「久し振りだな。最近見かけないが元気にしてたか?」
「うん、元気だよ。レオンが裁判所に来たらダメだっていうから…」
そこでしゅんとしょげてしまったクラウドにライトニングが何?と眉を吊り上げる。
「おい」
キッとレオンを見上げる様を見てしまえばその後の展開が読める。案の定ライトニングはレオンを睨み付けて締め上げた。
その様子を見てスコールは確信した。これは敵に回してはいけないタイプの人間だ。敵になれば容赦なく討たれる。
「ん、何だ?」
ふと、ライトニングの注意がスコールに向いた。レオンと同じ顔だから聞かずとも関係が分かっただろう。
「いつも兄がお世話になってます。スコールです」
ライトニングが何か言う前に先手を打って頭を下げる。更にクラウドの食事を作っていると言えば敵意が向くことはなかった。
「スコールのご飯ね、凄く美味しいんだ」
そこまでは計算していなかったがクラウドの援護で第一印象はまずまずだ。
クラウドに害がないと分かるとスコールから興味がなくなったのだろう。ライトニングはまたレオンを締め上げた。しどろもどろに言い訳をするレオンを助けもせずにぼそりとクラウドに呟く。結果的にその一言がレオンを助けることになった。
「あんたに似てるな。姉弟みたいだ」
自由奔放なところが。最後の一言は心の中に留めておく。うっかり言おうものならレオンの隣で首を締められる羽目になる。
「え、そう?」
クラウドは嬉しいようでへらりと笑った。ライトニングもまんざらではないようで、レオンから手を離すとクラウドに向き直った。
「理不尽な扱いを受けたらすぐに私に言うんだぞ」
「大丈夫、でもありがとう」
じゃあ、と来たときと同じように颯爽と去るライトニングの背中を見送る。それからレオンを見ると何とも情けない気がした。
「スコールぅ」
恨みがましい目で見上げられても怖くも何ともない。
「お前、どっちの味方なんだ」
「そんなの決まってるだろ」
スコールは投げ出された鞄を拾い、レオンの手を引っ張り上げた。
「強い方だ」
誠実ゆえに貧乏くじばかり引いてきた兄を見て育った。あれだけの反面教師がいれば嫌でも要領が良くもなる。スコールはニヤリと笑うと鞄をレオンに渡して歩き出した。

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