一目惚れ

「これにて閉廷する」
裁判官の言葉が響き渡った。そしてざわざわとざわめきだち、判決内容を確認する者、さっさと出ていく者、似顔絵を描いている者など様々いた。
「クラウド」
「…」
「クラウド!」
「わっ!あ、びっくりした」
「もう帰るぞ」
今し方、勝訴をもぎ取った弁護士、レオンは荷物を片付け、傍聴席にいたクラウドに話かけた。
レオンはかなりの優秀有能敏腕弁護士だ。大抵の弁護士は得意分野ばかりを専門とし、離婚弁護士などというような名書でいて民事訴訟しかしない弁護士が増えるなかで、レオンは得意分野に偏ることなく民事も刑事も、どちらの訴訟もそつなくこなす素晴らしい弁護士である。そして今日は刑事訴訟。この日の為に、レオンがたくさん走り回って、証拠を確認したりと自分の目と足で勝利を掴んだレオン。クラウドにはかっこよく、またまぶしく見えた。
またクラウドは初めて入る裁判所に、初めて座る傍聴席に、初めて見る法廷に、初めて聞いた判決に、心臓が早鐘をうっていた。
前は裏工作ばかりで、こういうところに来ることは一度もなかった。
「あんなにレオンがかっこよくなるなんて」
クラウドは先ほどの法廷での争いを思い出し、嬉しそうに笑った。
「かっこいいかは分からないが、まぁ勝てて良かった」
「うん。お疲れ様」
いつもならば事務所にクラウドを置いて裁判所へ向かうレオンだったが、クラウドから見てみたいだの、連れてってだのとおねだりされては連れていかないわけにはいかない。
初めてだらけのクラウドはあちこちを興味深そうに見ていた。
「あ、それにしても相手側も結構食らいついてたね」
「裁判官がコスモスだったから免れたけど、違う裁判官だったらあいつ黙らされてただろうな」
「そうなの?」
レオンにも裁判官にも真っすぐな姿勢で意見を述べていたのは確か検事だったはず。レオンに口で負けない検事なんかもいるんだなぁとクラウドは呑気に考えていた。
「あの検事はな…」
「呼んだか?」
レオンの前に、立つ人物。
「ウォル…」
「あの証拠を見つけるとは…さすがレオンだな」
苦笑い気味のレオンに、ぴくりとも笑わないウォル。
「お前が相手じゃやりにくい」
「それは私もだ」
「あ!さっきの検事さん?」
クラウドは漸くウォルの正体を突き止めた。
「あぁ。検事のウォル…大学が一緒だったんだ。ウォルこっちが…」
「君、名前は?」
レオンがウォルにクラウドを紹介しようとするのを無視して、ウォルはクラウドの肩を押さえた。
「え、く、クラウド」
「クラウド…なんて素敵な名前なんだ」
「へ?」
「おいウォル!」
「この透き通ったような白い肌。綺麗なハニーブロンド…まさに理想だ!」
「ウォル!」
「なんだレオン」
「クラウドを、離せ!」
いつの間にかクラウドをがっしりっ抱きしめていたウォル。
胸元でクラウドがレオンと呼んでいた。
「これはすまない。君、好きな花は?」
「は、な?」
「そうだ」
「えっと…」
「向日葵」
「レオン、君には聞いていないんだが」
「あ、薔薇ならわかる!」
「薔薇か…うむ、君に映えそうだ」
ぎゅっとクラウドの手を握りしめ、ウォルは言う。
「今日の公判は負けたが、次はこうはいかないぞ。光とクラウドに誓う。次は私が勝つと」
「ん?俺?」
「遅かったか…」
レオンは額に手を当てる。クラウドは今だ握られた手を見て、ウォルを見た。
「次は君に真っ赤な薔薇をプレゼントしよう。その暁には私の伴侶になってくれ」
「…は?」
「おいウォル!」
「む、もう次へ行かなければ。では、また会おう」
ウォルは足取り早くその場を去った。
「………レオン?」
「………なんだ?」
「なんだじゃない!なんだ今のは!」
「う…あいつ悪いやつじゃないんだ。ただ、真っすぐなだけであってだな」
「だからって、は、伴侶とか言うか?!」
「あー……帰るぞ」
「待て!話逸らすな!」
レオンは足場やに裁判所から出た。
あとをついて歩いたクラウドは腑に落ちないながらも、レオンの鞄を一つ持ちながら追いかけた。

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