苦手

レオンはあまり仕事を選ばない。スケジュールが詰まっている時は仕方なく断ることもあるが、基本的に刑事も民事も受ける。報酬の低い国選も快く受けてくるから金のために弁護士をしているのではないというのがよく分かる。死角がないように思えたレオンだったが、ひとつだけ苦手分野があった。
「レオンー、離婚調停きたけどどうする?」
「駄目だ。他紹介するからって断ってくれ」
クラウドの問いに即答するレオンの顔色は悪い。たとえ円満離婚だとしても愛人非嫡出子が満載の遺産相続の方がまだマシだと言い切るレオンの過去は何となく想像できる。
クラウドは大変申し訳ありませんが、と離婚に強い弁護士を紹介した。だが電話の相手は納得しない。必死に食い下がる様子にある考えが思い当たる。まあ、相手の思惑に乗るのも面白いかもしれない。
「じゃあ、明後日の13時に。はい、お待ちしてます」
受話器を置くと盛大なため息が聞こえてきた。受けたのか、と恨みがましくこちらを見て本当に嫌なんだな。ダメか?と聞くとクラウドのしたいようにすればいいと甘やかすような回答。仕事するのはレオンなのに、と思いながらクラウドは立ち上がった。
「ちょっと出てくる」
「どこへ?」
「調査。バッツ借りる」
事務所を出てからバッツにメールを送る。セブンスヘブンで新作のケーキを2個食べたところでバッツがやってきた。
「遅くなった」
「急な呼び出しだもん、いいよ」
バッツがカウンターに座るとアイスコーヒーが出てきた。ストローも使わずに一気に飲み干すとティファにグラスを差し出した。
「おかわり」
「はい、どうぞ」
既に次が用意されていて、ティファの気遣いの細やかさが見て取れた。良い子だと思う。自分に関わらなければ幸せになれただろうに。
「で、何?」
「バッツさあ、レオンと付き合い長いよな。レオンが離婚問題苦手な訳って知ってる?」
「おお、有名だかんな」
これがまた笑える話でさ、とバッツが話してくれた内容は本人には可哀想だが仕方ないと納得するしかできなかった。
初めて離婚問題を担当したレオンは女性側についた。原因は男性側の不貞。つまり浮気だ。女性は慰謝料と財産の分与を求めていたが、この慰謝料で揉めた。レオンがついているのだから主張も請求額もごく一般的だった。普通ならここまで揉めなかっただろう。レオンがごく普通の容姿なら。相手の男性はレオンを妻の浮気相手だと騒ぎ出した。だから慰謝料を貰うのはこちらの方だと。話し合いは事務所の会議室で行われていたし、レオンはその事務所に所属する弁護士だ。だが彼は弁護士バッチを見ても納得せず最後まで主張を曲げなかった。揉めに揉めたこの平凡な案件はレオンが担当から外れることであっさりと解決した。
「…で、後任は誰だったの?」
「所長だって」
「うわ…シャントット女史か…相手の男も災難だったな」
「ああ。ケツの毛までがっつりむしり取られたらしいぜ」
想像して二人で身震いする。レオンが以前勤めていた事務所の所長はかなりのやり手で容赦がないので有名だ。今は自ら案件を取り扱うことはなく後進の育成に努めているようだが、例の件では何かが彼女を動かしたのだろう。笑顔のままレオンの提示額の倍を勝ち取った。恐ろしいと両腕を抱き震えるバッツはその頃にはもうレオンと信頼関係を築いていた。
「急にどうしたんだ」
「うん、今度離婚を受けようと思って」
「止めといた方がいいと思うけどなー」
あれ以来レオンが離婚案件を扱っていないのは嫌になったからではない。クライアントの人間関係に止めを刺したくないからだ。それをクラウドが受けたからという理由で引き受けようとするのは、やはりレオンも心のどこかで苦手意識を克服したいと思っているのかもしれない。
「ね、こういうのはどうかな。ティファにも協力して貰うことになるんだけど」
「私?法律の知識なんてないけど」
「大丈夫」
クラウドが話す周囲を巻き込んだ仕込みはバッツの心を踊らせた。成功したら楽しそうだ。だが失敗したら新たな問題が発生する。それに皆が思ったように動いてくれるだろうか。バッツは考えた。成功率を上げるためにはどうしたらいいか。
「よし、クラウド。お前女装しろ」
クラウドが目を見開いて驚く。灯台もと暗しとはこのことか。バッツの提案はクラウドには思い付かないものだった。

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