人の不幸は舞台の糧

言い付けを守るのがこの子の良いところなんだけど、ちょっと真面目すぎるね。三ヶ月前に言ったことを覚えていて、律儀にこうして来てくれたのはいいんだが。クジャはドライマンゴーを摘まみながらクラウドを見た。傍目から見ると物憂げな麗人だ。だが本人を知っているので、クジャからするとうじうじ悩んでウザいことこの上ない。自分を客観的に見ていないからこうなるのだ。紙にでも書き出して自分の気持ちを整理すればいいのに。
「倫理的に問題があるから断るんじゃなかったのかい?」
「うん…」
「まさか犯罪は犯してないよね」
「まさかっ」
聞いたところによるとクラウドの彼氏というのはクラウドよりも背が高く男前だという。性格を考えてもクラウドから迫ることはないだろう。未成年に襲われた場合はどうなるんだろう?と考えながらドライマンゴーを口に入れた。
「で、君はどうしたいんだい?」
「やっぱり別れた方がいいと思う」
「じゃあ別れたら?」
「う…ん」
何を悩んでいるのだろう。一度鏡を見ておいでよ、君は選ばれる側じゃないんだよ。そう言ったところで自己評価の低いコンプレックスの塊に理解できるかどうか。
「じゃあね、一つだけ教えてあげよう」
こんな守りに入った恋愛なんて辛いだけなのに。
「返事は君の家の玄関前ですること」
「何で?」
「物理的に互いの逃げ道を確保するためさ。君がそんなんだと向こうから断ってくるかもしれない」
クラウドがぎくりと強張る。何か思い当たる節があるようだ。頭を抱えてそうだよなと呟く。
「何かあったのかい?」
「んー…」
しばらく唸ってから観念したように口を開く。曰く、恋人が友人と合コンの相談をしている現場に出くわした。気になって張り込んだらしっかり合コンをしていた。その様子が高校生らしくて思いっきり疎外感を感じてしまった、と。
「張り込みなんてバカな真似は止めたらよかったのに」
つい本音が出る。この子は顔も良いしお勉強もできるのに対人関係はまるでダメだ。セフィロスのせいだけではなく友人が少ないのも頷ける。
「別れるなら思ってることを全部ぶちまけたらどうだい?」
どうせ二度と会わない他人だし、その方がすっきりするよとクジャが言う。内に溜め込むタイプのようだから爆発するまえに適当なところでガス抜きしておかないと。爆発するならまだましだ。どこまでも良い子だから不発で壊れてしまうかもしれない。
「うん、ありがとう」
「これも僕のフィールドワークの一環だからね、どうあれ結果は教えてくれよ」
「分かった」
少しだけ笑顔を取り戻してクラウドは研究室を出ていった。本棚の一角を占領しているフィギュアの群れから一つ取り出して腕を動かす。
「ホント人間て面倒臭いね」
だからこそ思いもよらないドラマが生まれるのだが。フィギュアの少年は最高の笑顔を投げ掛けている。
「面白い展開になったら君の今度の舞台の脚本にしてみようか」
クジャはフィギュアを元に戻すと研究室を出た。クラウドはきっと面白い結果を持ってくるに違いない。セフィロスの動向でも調べておこう。次の脚本は大ヒット間違いなしだ。

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