「…私をからかっているのか?」

「いやー俺としては最善を尽くしたんですけどね」


突き刺さる立花先輩の視線はいつもどおり御綺麗なのだが、雰囲気が少しだけ違う。いつもの私服より少し高価な着物を身にまとい、束ねている髪は更に念入りに櫛でとかれており風になびく度に一本一本が綺麗に舞う。
これからこの人と並んで歩かなければならないというのだから、嫌なんてものではない。俺がいくら着飾っても足元にも及ばない、それなのにも関わらず更に今の俺は女性の着物を着て傷んでいる髪は無理矢理かんざしでまとめてある。自分で言うのもなんだけど、見れたものではない。

学園長先生の思いつきで、五年生と六年生の合同授業が行われることとなった。それは別に構わないのだが、内容が今回は俺が最も苦手なものだった。ペアを組んで戦うのだろうとばかり思っていたのに、こんなことになろうとは。
六年生が男性で五年生が女性、恋人と偽り町へ行ってバレずに指定されたものを買ってこれたら成功。まだ責めてペアのどちらかで女役を選べることが出来たのならば立花先輩にやってもらったのに。

少しでも見れるものにしようと自分なりに試行錯誤して化粧やら着物の柄やらを選んでみたけど、所詮俺は俺だった。こんな女性に出くわしたら速攻で逃げるね、俺は。


「おい」

「はい?」

「ちょっと貸してみろ」


答える前に先輩は化粧道具を俺の手の中から奪い取り、顎に手を添えられ上を向かされた。化粧筆が顔を撫でていくのがくすぐったくて、目を固く瞑って終わるまで待った。
数分後、何やら少しだけ満足の声を出して手を止め、先輩は待ってろと一言だけ言い俺の部屋から出ていってしまった。またも待ちぼうけ、手持ちぶさた。仕方がなく、少しだけでもと髪をとかしておくことにした。やらないよりは良いだろう。櫛を入れてみると一向に下にいかない、こんなにも酷かったっけと。悲しいけれど再実感をして先輩が戻って来るまで出来る限りやってみることにした。


「ほう、良くなったではないか」

「あ、先輩」


戻ってきた先輩の手には鮮やかな色の着物があった。見たこともない綺麗な刺繍がほどこされていて、なかなか手に入りそうにない代物のようだ。


「先輩、それ…」

「あぁ、本当は作法委員会で使うものなのだが」

「そんな着れませんよ」


いいからと先輩は俺を立たせて着るように促す。それもあまりにも真剣な目をしていたので断れず、着こなせるか心配であったが着替えてみる。
帯を巻いている間に先輩が器用に、それでもまだ傷んでいる髪を綺麗に見えるようにまとめてくれた。


「まぁいいだろう」


着替え終わった俺を見て先輩は納得したような声を上げた。


「全くきちんとやればそこらへんの女共より見れる顔になるというのに」

「えっ本当ですか!」

「…お世辞だ」

「ですよねー」


お世辞だろうと、あの立花先輩に誉めていただけたのはやはり嬉しくて。ほら行くぞ、と差し出された手に自分のものを重ねた。
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