「ごめんな、伊助。生物委員でもないのに」

「いいですよ。僕、こういうの好きですから」


数時間前、生物委員会で飼育小屋の掃除を始めた。ここ最近何かと忙しく、本格的な掃除は本当に久しぶりなものだった。よく見ると、隅には生き物の毛玉が溜まっていたり餌の残りが飛び散っていたりもしている。このまま、このようなところで飼育をしていては生き物達も体調を崩しかねない。

そして今日、やっと生物委員全員の都合が合い集まることが出来た。自分一人でやろうとも考えたが、行わなければならない作業の量の多さに諦めた。だからこの機会を逃すものかと、六人全員が意気込んでいたのだが。途中で虫は逃げるわ、それを誤って踏まれるわ。気付けば、始める以前よりも散らかってしまっていた。
もう六人ではどうしようもなく仕方がないが誰かに手伝ってもらおうと、とりあえず五年生に声を掛けてみたが皆忙しいようで断られてしまった。すると、この事態に成すすべがなく困っていた俺に兵助が一人の後輩を連れて来てくれた。なんでも、掃除の達人なんだと。

「竹谷先輩、今度はそっちをお願いできますか?」

「了解」


伊助の言うとおりに掃除を始めると、先程までの散らり様が嘘だったかのように、みるみる綺麗になっていった。
なるほど、兵助の言うとおりだ。こんなにも手際がよく掃除を出来るなんて、自分には無理だ。


「伊助は凄いな」

「そんな、何がです?」


伊助と隣り合いながら飼育小屋の壁を拭く。
他の生物委員の皆は逃げた虫達を捕まえに行ったため、ここにはいない。


「俺、不器用で。こんな効率良く掃除とか…ここまで綺麗にすることも出来ない。きっと伊助は良いお嫁さんになれるよ」

「…からかってるんですか?」

「いやーごめん」


つい思っていたことをそのまま口に出してしまった。隣で伊助が不満そうな顔をしているのがよくわかる。誰だって男である以上、そのようなことを言われて嬉しい者は誰もいないだろう。


「伊助、本当に悪かった。えっと、ただその…結婚とかするなら伊助みたいな綺麗好きな女性がいいなって思ったんだよ」

「だから、かわかわないでください」

「いや、これは事実だって」

「…僕、水汲んで来ますね」


伊助はそう言うと俺と顔を一切合わさずに、井戸へと歩いて行ってしまった。また何かまずいことでも言ってしまったのだろうか。
考えていても駄目だと、俺はいつの間にか止まってしまっていた手を再び動かして壁を拭く。ふと先程まで伊助が拭いていた場所を見ると、明らかに俺が拭いている部分よりも綺麗だった。それを見てまた、やっぱり伊助みたいな女性と結婚したいな、と思ったことは秘密にしておこう。

遠くのほうを見ると、伊助が水を汲んだ桶を運んでくるのが見えてきた。それを見て俺は微笑むと、伊助も笑ってくれた。


「竹谷先輩、ただいま」

「おかえり、伊助」
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