二万打アンケートに皆様参加して下さってありがとうございました!
そして一番だった鉢竹を感謝も含めて二万打フリーとさせていただきます。
フリー期間は特に設けないのでお好きな時にお持ち帰り下さい。
二万打ということでなんとか「二」という数字に関係したものにしたいなぁと考えた結果、二年生の皆さんをご一緒に。
そんなわけで、三郎次くん視点となっております。

***



「竹谷先輩と鉢屋先輩って付き合っているんですか」


初めはただなんとなく気になって、一年は組の奴等をからかうのと同じように。心が広い竹谷先輩と悪戯好きの鉢屋先輩なら、笑って流してくれるかあるいは冗談に付き合ってくれるかと思ったんだけど、どうも御二人の反応が僕の思っているものと違った。

目を丸くして、耳を真っ赤にしてから俯く竹谷先輩。それを見て、玩具を前にした悪餓鬼のようにちょっとだけ口角を上げる鉢屋先輩。これはどう見てもきっとそういうことなのだろう。
元々仲の良い学年なんだ、五年生は。そして思い返してみればこの二人、一番喧嘩して一番歪み合っていたけれど一番気が合っていたのではないか。そのように見える場面を何度も見ている。
だからこそ、普段あまり接点がない先輩方と偶然図書室で一緒になった今、聞いてみたのだ。しかしそうか、この反応はやっぱり僕の思った以上のものだ。


「いつから…」

「三郎次が入学するちょっと前ぐらいからだっけ、なぁハチ」

「あ、あぁ…忘れた」

「そうなんですか…」


珍しく図書室は閑散としていて、なんでこんな時ばかりと、そう思った。すぐ後ろにある本棚から妙に圧迫感を感じ、居心地が悪い。
ちょっと離れたところで図書当番をしている久作も、眉根を垂れていつになく困惑顔をしている。そして僕と目が合うと思い出したように貸し出しカードの整理を始めた。どうやら助け舟を出してくれる気はないらしい。無理に頼んで怒らせてしまうのは、それこそこれ以上に厄介なことだから、仕方が無い諦めよう。

竹谷先輩はやっと落ち着いたのか、顔を上げて困ったような笑顔を作る。その表情をしたいのは僕のほうなんだけどなぁ、なんて思ったけれど、口には当たり前のことではあるが出しはしなかった。それに笑い返してから、横目で鉢屋先輩を見るとお決まりの薄く開いている目と視線がぶつかった。何か考え事でもしているのか、手に持っている筆の柄でとんとんと机を叩いてぼーっとしている。
そういえば御二人は勉強をしている最中だったか。並んで机に向かい教科書やら図書室で借りた本やらを開いて必死に筆を走らせているところに僕が声をかけたんだった。
そしてそのまま向かい合うようにしてここに座ったのは数分前で、こんなに時間を長く感じたのは久々だ。昼休みにちょっと本でも借りに行こうと思ったら結構なことに巻き込まれたものだ。いや巻き起こしたのか、まぁそんなことはどちらでも良いけど。午後の授業まではまだ時間もありそうで、どうしたものかと考える。


「お邪魔ですか」


僕の問いに御二人はそんなことは無いと首を振る。竹谷先輩はいつもの優しそうな顔で、そうして鉢屋先輩でさえも驚いた様子で何を気遣っているんだと逆に少しだけ怒らせてしまった。

徐々にではあるが図書室に人が増えてきた。久作も忙しそうに働き、委員会の一年生も手伝いにきて、一生懸命でそれでいて楽しそうに活動している。
目当ての本はとうの昔に見つけてしまっていたし、竹谷先輩と鉢屋先輩の色恋沙汰は置いておいても、勉強をこれ以上邪魔するわけにはいかないだろう。


「では僕そろそろ行きます。大丈夫です、誰にも言いませんから」


机の上に重ねてあった借りる本を数冊脇に抱えて立ち上がる。貸し出しカードは本を見つけたと同時に書いてもらっていたから、もう部屋に戻るだけ。
軽く会釈をしてその場から去ろうとした瞬間に「べつに言ってもいいけどな」と独り言のような鉢屋先輩の声が聞こえた。振り返って見てみると、鉢屋先輩は少しだけ口元を歪めて悪戯っぽいそれから胡散臭そうな笑みを顔に貼り付けていた。
竹谷先輩は横で溜息をついて、またかと慣れたような様子だった。
「だって皆に理解してもらったほうがハチを取られる心配もないだろう」なんて、先程呆然と考えていたことはこのことだったのかもしれない。本当にこの御二人は仲が良いというか、なんと言えば良いのか、いまいち言葉が浮かばない。まだ一年と少ししか知らないけれど、それでも。


「そういうものですか」

「そういうものさ」

「俺は別にそうは思わないけどな」


竹谷先輩の言葉に鉢屋先輩は何でだとわざとらしく頬を膨らませた。そうしてぐちぐちと言い争うのは、よく見る御二人だった。らしいと言えばらしい、何よりも此方のほうが互いに何故だか楽しそうに見える。
それに僕も何だか似たような感情を持ってしまって、面白い人達だなぁと心の中でひっそりと笑った。

改めて挨拶をして、久作に委員会頑張れよと声をかけて漸く図書室から出た。廊下を走る生徒達の様子からして、まだ少しくらい授業には時間があるようだ。そのまま教室に向かおうと思っていたが自室に寄ってから行くことにした。本も置いてきてしまいたかったし。


「おかえり」

「おかえりって、おい」


戸を開くと左近と四郎兵衛が中でのんびりとくつろいでいた。左近は分かるが、四郎兵衛がここにいるのは珍しい。しかしまぁ、今においては好都合であろう。
ちゃっかり僕のお菓子を食べているのに腹立ちながらもまぁいいかと、二人の間に座った。


「何処に行っていたの」

「図書室、面白い話を聞いた」


そう言うと二人は何の話と興味深そうに目を輝かす。それに僕は満足すると「竹谷先輩と鉢屋先輩のことなんだけど…」と話し出した。
借りてきた本は床に雑に置いた。久作が見たらすぐに怒りだすに違いない。忍具の本に忍者食の本、それからもう一つ図書室から出て行く直前に何となく目に入ったから追加で借りた本、薄汚れた安っぽい恋愛の本。今までの僕ならば絶対に借りることなどなかっただろう、それ以前に目にすら入らなかったと思う。しかし、やはり借りたけれどこれは読まないかもしれない。そしてこれでいいのだと、そう感じる。
左近も四郎兵衛も僕の話を聞いて驚いたような顔をしている。こういった表情を見ると、本を読むことよりもこいつ等と話しているほうが随分と楽しいなと思える。
それから、そっと僕は貸し出しカードを見た。期限は一週間、だけど今日の授業が終わったら早速返しに行こう。久作の不思議そうな顔が目に浮かぶ。そうしてまた先輩方に勉強を教えて下さいとか何とか言って、お話でも伺おうかと思う。今度は根掘り葉掘り色々と聞いてやるつもりだ。


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