相手の家まで送って行くとか映画のラブシーンで手を握るとか、そんなことしたことない。そういやキスだって、それこそ告白もしていない。


「なぁ、俺等って付き合ってんの?」


藤田は少しだけ嫌そうな顔をして、何も答えずにTシャツに袖を通す。乱れた髪に、透き通るような白い肌。それを覆っていくオレンジ色の俺のTシャツ。
此方は此方でベッドの上で少しだけ息が上がっている。どくんどくんと長距離を走った後のような感覚に、心臓が痛い。

もし第三者がこの場に入ってきたら、あら御盛んでしたね、なんて言って顔を赤らめて飛んで出ていくのではないだろうか。気持ちは分からなくもない、だって本人である俺さえ少しだけ思ってしまうから。でも俺の場合は願望から見せる幻想に過ぎない。ほら、それを肯定するかのような藤田の嫌そうな顔。それほど先程の質問が気に食わなかったのか、それはちょっと傷つくな。

俺と御揃いのTシャツを着た藤田は破れ飛んで散らばった自分のシャツをかき集めている。一ヶ月に一枚ずつ必ず布切れとなってしまう可哀想なシャツ。脱いでから変身すればいいと思うのだけど、藤田はそうはしなかった。何度も教えてあげたのにも関わらず、笑って話を上手く逸らすだけだった。
今日は藤田が来た時間が遅かったため弟は寝てしまい、久々に闘いの相手を俺が勤めた。いくら狼男の藤田が弱いからといって、殴ったり蹴ったりすれば疲れる。藤田が元に戻ったことを確認したと同時にベッドに倒れ込んだ。


「帰んの?」


荷物をまとめて立ち上がった藤田を引き止めるようにして、俺もベッドから降りた。いつもならば泊まっていくことがほとんどだ。それをどうしたのだろうか、今日の藤田は少し雰囲気が違う、口数も少ない。


「邪魔じゃない?」

「今更なんだよ、いつも泊まってくだろ」


そうだ面白い漫画があるんだけどさ、そう言って無理矢理もう一度藤田を座らせた。適当に本棚から選んで手渡すと、藤田は短く礼を言って受け取るも脇に置いて読もうとはしない。俺も携帯でも見ればいいのだけど何故か出来なくて、藤田の向かいに座った。

もう藤田とは何年一緒にいるのだろうか、といっても数えるほどもない。中学校は互いに違い、高校で初めて出会ったから。だけど、長い間二人でいるというそういう気がする。きっとこれは相手が藤田だから起こること、こいつ以外の奴にこんなことを思うわけもない。
藤田が隣にいることが当たり前になって、学校では勿論、登下校だって。休日だってよく遊ぶし、一ヶ月に一度はそういうわけで家に泊まっていくし、会えていない時はメールや電話をしている。これって何かに似ていないかなと、そしてこれが恋人がすることと同じなのではないかと気付いたのはもう数週間も前のこと。

俺の服を迷わず着ようとしている藤田を見て、まるで恋人が愛し合った後の光景のようなそれに、少なからず思うことはあって言ってみたわけだ。付き合っていたらいいなって。自分がベッドにいて息が上がっているということと、時間帯が夜ということも手伝って、どうもそういう風に考えてしまう。男子高校生としては健全といってもらいたい。
しかしあの一言で藤田を傷つけてしまったのであれば、なんて申し訳ないことをしてしまったのだろう。それはそうだ男同士、そして親友から急に性を越えるようなことを言われては引くとかそういう次元ですらないのだ。もしかしたら俺は自分が思っている以上に悪い状況の中にいるのかもしれない。いつもと違って先程藤田が帰ろうとしたのは、俺の発言に拒絶の意味を表したから。恋人だなどと何を自惚れているんだ俺は、これは親友ですらなくなってしまう危機なのではないか。

これほど後悔したことはない、藤田と離れるなんて冗談じゃない。どうすればあの一言を取り消せるだろうか、いつものように冗談でした少しからかっただけだよ、なんて通用しそうにない。だって藤田が今にも泣き出してしまいそうな顔をしているから。


「藤田」


何も言えることなど無いのだが、無言でいることのほうが無理だった。何か声を掛けてあげたい、まぁこれも本当はただ俺が話したいという自己満足からくるものだけど。
藤田は伏し目がちだった顔をあげて俺を見た。そして何故か悲しそうに笑う。


「ケンジの服、好きだよ」

「…何?」

「だから俺、狼男になるときシャツ脱がないんだ、借りられるでしょ?」


図々しいんだ俺、と付け足して無惨な姿の自分のシャツを見る。つられて俺も同じように見る。薄いシンプルな色のシャツと相対する俺の明るいオレンジ色のTシャツ。
あとね、と呟いて少し小さくなった声で話し出す。


「俺は付き合ってるって勝手に思ってた、やっぱり図々しいよね」


藤田は完全に笑みを失い、代わりに俺が軽く笑った。
嫌そうな顔をしたのも帰ろうとしたのも、俺に裏切られたと思ったから、そういうことでいいんだよな。そう自分に良いように言い聞かせて、さてなんて言ってやろうか。違うんだ俺も藤田と同じことを思ってたんだ、これでいいかな。そうだその前に、俺は思い出したように携帯を開いてカメラモードに設定した。それでは最高の笑顔でも撮らせてもらおうか。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -