大学パロ

***




もう藤田と会わなくなって、どのくらい経つだろうか。携帯のカレンダーで確認してみると、何度数えてもまだ数日しか経っていなかった。あぁなんだそんなものなのかと、また俺は頭を抱える。これも、もう何度目だろう。

高校を卒業して。通う学校、住む場所が変わって。藤田と会わなくなった。俺より頭の良い藤田は東京の大学へ、俺は適当に地元の大学に入った。
まさか、別々の学校に行くなんて思ってもいなかった。このままずっと一緒に居られるだろうなんて、都合の良いようにだけ考え、それを信じて疑わなかった。いや、疑いたくなかった。藤田と離れる、考えるだけで身体が拒否反応を起こす。考えが甘かったんだ、全て。
藤田の進路を聞いたときのことは、今でも覚えている。少しだけ悲しそうに微笑み、俺とは違う大学名をあげる藤田は俺なんかよりずっと大人びて見えた。まだ近くにいるはずなのに遠い存在に思えて、自分のちっぽけさに嫌気が差した。


「会いてーな…」


携帯を閉じてベッドに放り、その横に自分も倒れるように飛び込む。スプリングが軋んで鳴る音が、妙に腹立たしく思えた。そういえば、満月の日には倒れた藤田をこのベッドに寝かしたっけ。ちょうど今目に入っている窓ガラスは突き破ったっけ。などと藤田のことばかり大量にフラッシュバックして、それが辛い。
しかし、この家に住み続けている以上、いつまでも起こってしまうだろう。実家を出て一人暮らしでもしようか、なんて考えたこともあるが、踏み切ることが出来なかった。藤田ともっと離れてしまう、そんな気がしたから。
酷い矛盾だが仕方がない。忘れたいけど忘れたくない、そんな板挟みから抜け出すことは到底今の俺には無理だろう。

たった数日だけでこんなにも苦しいのに、これから約四年間どうやって俺は生きていけばいいのか。その答えは、やはりどれだけ時間をかけて探しても見つかる気がしなかった。
このまま部屋を見ていることが出来なくて目を閉じようとしたとき、インターホンの音楽が聞こえてきた。それを弟か誰かが出るだろうと無視をし、もう此の際寝てしまおうと思い布団を手で手繰り寄せた。


「あれ、なんだ寝てるの?」


ノックもされずに開かれたドアと共に聞こえてきたその声に、反射的に飛び起きるとたった今まで考えていた奴がそこにいる。


「来ちゃった」

「来ちゃったってお前…は、え?」


藤田は、まだ理解できていない俺を一人置き去りにして。まるで入れ違うように、さっきまで俺が寝ていたベッドに腰を下ろした。


「授業が終わってから来たから、流石に疲れたよ」


呑気にそんなことを言うと布団に潜り横になってしまった。
信じられない光景に本当はあのまま寝てしまってこれは夢なのかと、馬鹿馬鹿しい在り来りなことを考えて自分で自分を笑う。嬉しさよりも驚きのほうが大きくて、なかなか素直に喜べない。
藤田は寝返りをして此方を向く、俺もそれに合わせて藤田に向きなおりその場に腰をおろした。


「あのさ、ケンジ…」

「ん?」

「ケンジは俺と会えないのを辛いって思ってくれた?」


弱々しく放たれた言葉。床に座っている俺に比べ、ベッドに寝ている藤田は少し目線よりも高いところにいるため見えにくい。しかも、布団で顔を隠すものだから尚更だ。しかし先程の言葉は俺にちゃんと届いていて、それの意味もよくわかった。
ここにいる藤田は紛れもない俺の親友で。前に感じた大人びている様子は、今回は感じられなかった。それがまた同じような立場に立てたように思え、嬉しい。藤田も俺と同じことを考えていたんだ、それを聞いてやっと心からここに藤田がいることを喜ぶことができた。


「ばーか…辛いどころの話じゃねーよ」


どうやらこれからの生活は互いに地獄を見るようだ。なんて弱いんだろう、俺もお前も。依存し合う、いつまで経っても俺等は子供のままだ。

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