それを恋と言うには余りに薄っぺらい。もっとぐちゃぐちゃに織り交ぜた、例えるなら執着に近い感情だ。我ながら、不完全な自己欺瞞も甚だしい。どうせ偽るのなら最後まで通せば良いのに。
あんたは俺が好きなんじゃないのか、どうなんだ。出掛かったその羅列を何度飲み込んだ事か。消化不良も良いところだ。お陰でまた溜め息がひとつ余計に吐き出された。言ったら今まで積み上げてきた何かが壊れてしまう気がして。その何か自体、ベルナルドにとっては始めからないのかもしれないが。
何処までも狡い男だと思う。俺が彼を好きだと分かっているのに、確信があるのに動かない。それはきっと自分が傷付くのが怖いから。自分が自分でなくなってしまうのを恐れているから。だから、俺からなんて言ってやるものか。
「ジャン」
俺だけにしか聞かせない甘やかな声。振り返ればこちらに向けられたその双眸が僅かに細められる。そうか、もうこんな時間か。殆ど手付かずな俺を笑い飛ばせる程に、筆頭幹部様は手腕を振るったんだろうな。これくらいなら声に出しても良いかもしれない。(ただの八つ当たりだ)
適当に掌を振って返せば、その唇が持ち上げられる。相変わらず綺麗な顔だな、なんて他人事のようにぼうっと考えていた。
「昼飯、一緒に行こうか」
俺に選択権はないってか、笑っちまうな。その声からも表情からも、真意を汲み取る事は不可能だ。(そう思う時点で、きっと知りたいと思っている)俺が好いていると分かっているからなのか、それとも断られて傷付きたくないからなのか。どちらにしろ彼のそれは自分へ向けたものなのだろう。
彼の頭の中で繰り広げられている独り善がりのお遊びはもう一手先を読んでいる。そしてそのジャンカルロは、きっとこう言うのだ。
「勿論よ、ダーリン」
嗚呼、どうやら俺もどっぷり一人遊びに嵌ってしまっているらしい。
111016