その男と関係を持って未だ三回。女々しくも覚えている自分が憎い。普段あれだけ壁を作っている癖に、一気に距離を詰めてくる飄々としたそいつが憎い。しかしそれ以上に愛してしまったのも事実なのだ。こればかりはどうしようもない。あいつの心はジャンのもの、色気のない筈の細い躯をこうして抱く度に揺るぐ事のない事実を突き付けられる。
 何度も腰をがつがつと打ち付けてやりながら、何時の間にか萎えていたそいつのペニスを扱いてやれば、どうやら夢想の世界からこちらへ戻ってきたらしかった。ひ、と甲高い悲鳴が漏れる。手の甲で口を押さえ態々それを恥じる振りまでしてみせるものだから質が悪い。もはや感じているかさえ定かではないのだ。
 疑心暗鬼する自分に陶酔しながら奥を突けば、どうやら俺の方が限界を迎えたらしかった。そいつが何か言っているのを遠くに、きっとお決まりの文句だと決め付けて。急速に白む意識で、内部をひたすらに抉る。射精する直前に引き抜いて絞り出すように根元を扱きながら、ぐったりとしている(うんざりしているとも言う)男の顔目掛けて勢い良く精液を飛ばす。そんなに中に出すなと言うなら、此処なら構わないよな、ベルナルド。

「っ…!」

 こればかりは奴も想定していなかったのだろう。その宝石のような瞳が見開かれ、こちらを向く。射精の快感と少しの優越感に気持ち悪い程に頬が緩むのが分かった。だがそれも束の間、不快感を露にするように寄せられていた眉根はすぐさま元の形を象り、薄ら笑いさえ浮かべていた。

「…お前は可愛い男だな、ルキーノ」

 怠そうに投げ出していた躯を起こしてそう吐き捨てたベルナルドは、その長い指で顔に飛散した白濁を掬うと舌を出して舐め取ってみせて。あのベルナルドが、俺のものを。気でも触れたのだろうか。珍しいものでも見るような気分で思わず屈み込んで目を見張る。好い加減顔面の筋肉が忙しい。

「…おい…ベルナルド…?ん、っ…!」

 捩れていた解け掛けのネクタイをぐい、と引っ張られたかと思うと、いきなり口付けられていた。逃げられないようにもう片方の手ではがっちり後頭部を押さえ済み。こんな日に限って。情けのつもりなのだろうか。それとも偶然、だとしたら余計に救いようがない。
 独特の苦みが舌に広がる。この男のキスと、自分のものへの嫌悪。両者を天秤に掛けようとも、思考を塗り潰されるような情熱的なキスに酔わされていた。ちらりと表情を一瞥すれば、少しも欲望の色を宿していない双眸と視線がかち合う。ぞくりと、腰が震えた。(俺は何時から与えられる事を欲するようになったのだろう)

「どうだ、自分の味は」
「…最悪だ」

 唇を離したかと思うと最低な男は眉根を寄せた俺にそれはそれは愉しそうに頬を緩めて、その薄い唇を僅かに持ち上げて笑んでみせる。これがこの男との初めてのキスかと思うと笑うに笑えなかった。




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