ほんの些細なパッセージ。心地好いそれが耳に纏わり付いて離れない。あ、そうだ、利いた風な何ちゃらってやつ。カポになってから目紛るしい生活をしている所為か、何処で耳にしたか定かではない言葉や音を記憶したり、つい口にしたりするのがやたらと増えてきた気がする。まあ、その大半が文字通りのダーリンからだったりするんだけど。(それに気付いてしまった時の恥ずかしさと言ったら)(絶対言ってやらねえけど)
 今もこうして、特に上機嫌でもないのに鼻歌なんか歌っちゃったりして。それも完全に覚えているのではなく、況して部分的なメロディーがループするものだから、そこからずっと抜け出せずにいる。覚えたての言葉を知った餓鬼みたいに、もはや何かの信号とも取れるそれを発信しながら、目の前の男の電話が鳴り止むのを待ちわびていた。
 終業時間なんて概念、こいつにはないんだろうな。ハニーがずっと見詰めてやっているってのに、不特定多数からのラブコールに応えちゃうなんて全くいけないダーリンだ事。口を尖らせて退屈そうにする俺を見兼ねてか、目が合うとウインクを一発噛ましてきやがった。次いでさらさらとラブレターに走り書き。
 ―――今夜、あのバーを貸切にしよう。
 はて、何の事だか皆目見当付きませんが。首を傾げた俺を認めると、未だお仕事モードらしい筆頭幹部サマは頬を緩めて微笑み掛けてきた。


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