灯りを消さないでくれ、お前の顔を見たいんだ。彼はそう言った、本当はただ暗がりが恐いだけなのに。ちょっと苛ついた。だから、その口実に少しだけ乗っかってやろうと思って、そんなに俺が好きならずっと見てろよ、なんて文句を吐いた。
 ベルナルドは特に抵抗する事もなかった。その必要がないと感じたのかもしれない。腕を頭上で一纏めにして、ネクタイで縛ってみる。ワオ、何だかそれっぽい。頭を擡げる好奇心に、俺は舌舐めずりする。灯りは不自然なくらい煌々と輝き、俺達を照らしていた。

「…流石に、男を縛るのは初めてだ」
「そう言わず、最初で最後にしてくれよ、ハニー」

 アンタは縛られ慣れてたりして。込み上げた言葉を喉へ押し戻すと、戯れに返す事はせず、シャツのボタンをひとつずつ外し(雰囲気出すためにぶちぶちっとやっても良かったが遠慮しておいた)胸元を露にしてやった。
 男の躯にそそられる、というよりはベルナルドの躯だから未だ見られる、くらいのレヴェルだ。俺もやっぱりダーリンには弱いんだなあ、なんて心の中まで棒読みでなぞりながら、乳首を引っ掻いてみる。ぴくり、と僅かに肩が揺れた気がした。次いで、苦笑が漏れた。

「爪くらい切れよ」
「俺にそんな習慣ないの知ってるデショ」
「はは、そんな事じゃ女に嫌われるぞ」
「…なあ、アンタって結構適当だろ」

 まあ、この付かず離れずの関係が心地好いのは分かるけど。円を描くように指の腹で転がしながら溜め息混じりに言えば、さあな、なんてまた適当な答えが返ってきた。まどろっこしいやり取りなんてもう十分だ。そこを指で摘むと、爪を食い込ませた。小さく喉から悲鳴らしきものが漏れ、眉が顰められる。嗚呼、痛そう。
 ベルナルドにとってはきっとこれから先に待っているどんな仕打ちよりも、暗がりの方が怖いんだろうな、とか他人事のように考えながら。俺は無感動に、ただそこに力を込めていった。(これで勃ってたら傑作だったのにな、)




100520
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