彼は俺が好きなのではなく、俺とするセックスが好きなのだと思う。それも、支配されている自分を他人事のように視て、いるのだ。だったら、俺からされるキモチヨクナイ事は、好きなのだろうか。嗚呼、考えるだけ無意味だ。どちらにしろその答えを知っているのは彼だけ、寧ろ彼さえも意識していないのかもしれない。きっとそうに違いない。だから俺は彼を少しも理解出来ないのだ。
 例えば俺が罵詈讒謗を投げ付けたとしたら、彼はどうするのだろうか。恐らく、ごめん、なんて心にもない羅列を零して、眉根を寄せて微笑むのだ。それ以外に方法を知らないから。知ろうとしないから。確かに俺も、逆上せた状態で彼のどんな弁解も聞きたくはない。しかしこれではまるで、一人芝居を永遠と続けているような気さえする。彼も同じなのだ。俺がこうして逆上して、感情のままに虐げる事を分かっていながら、それを心から望んでいるのだ。何故、なのだろうか。俺が好きだから、ではない事は確かだ。俺を試しているのか。何の為に。何の為に。
 眉根を寄せたのは俺の方。それも不快を前面に押し出すように。少しも抵抗を見せない癖に、その澱んだ瞳は俺を映していないような、拒んでいるような気がして。苛々する。癇に障る。ベッドに転がされたというに何をするでもなくただ俺を見据えただけの、(敢えてそうしているか否かさえ分からない)貧相な男のシャツを開けさせて。胸に散った消え掛けのキスマークへ唇を寄せた。何時にも増して強く吸ってやれば、彼は少しばかり躯を捩ってみせた。そうだよな、あんた、痛いの好きじゃないもんな。しかしその腕はだらんと下げられたまま、こちらに回る様子も押し返す様子もない。益々癇に障る。それは詰まり、この行為が終わるのを一向待っている、という事なのだろう。抵抗しなければ一番楽だから。(嗚呼、もう抜け出せない)
 唇をゆっくりと離す。色濃く残る鬱血の痕にほくそ笑む余裕もなく、感情のままに、吐き出してみせた。

「なあ、俺、結構怒ってるんだけど。痛くしてイイ?」
「ジャンの気が済むなら、それで良いよ」
「…ほんと、あんたのそういうとこ、嫌い」
「そうかい?…ごめんね、ジャン」

 言って。彼は薄く笑った。嗚呼、嫌い、大嫌いだ。俺が、あんたの事を好きだと、知っている癖に。




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