「さて…今日は、どう料理してやろうかな」

 言って、ベルナルドは薄く笑った。あ、キタ、この仕種。俺、女になったんじゃないかと思うくらい、このネクタイ緩める仕種に弱い。どきっとする。(フィルターは掛かってるだろうけど、)こうして間近で見ると本当に良い男だと思うんだよな。まあちょっと何処かのネジが外れているのは確かだけど。何だってこんな柔らかくもない男をベッドの中でまで口説こうとするかな。ただの癖か、性分か。
 どさりと覆い被さってくる。髪の毛が首に触れて、少しくすぐったかった。悪いな、なんて囁くベルナルドは卑怯だ。次いで落ちてきた唇は、もっとくすぐったかった。下唇をねっとりと食んだかと思うと、開けとでも言うように舌先で軽くつつかれる。どう考えても甘い時間のはずなのに、挑発されたような気がして。特に恥じらう事もなく唇を開けると、ぬるりと、それは滑り込んできた。

「ん、ジャン…」

 鼻から抜ける声。相変わらず腰にぞくぞくとクる声を出しやがる。そんな俺も、生暖かい舌に上顎をなぞられておんなじような声出してるんだけどね。頬にそっと手を添えられて、角度を変えて口付けられる。舌を絡ませて揉んで吸って、これでは貪るだけの獣だ。これ以上うちに動物増やしてどうするよ。飲み込めない唾液がやらしい音を立てて、そんな思考さえ吹き飛ばすような、いかにも恋人達の甘い一時、を演出していた。
 唾液でてらてらと光る唇がゆっくりと離れたかと思うと、頬へ優しく口付けられる。次いでそれは首へ伝い、ちくりとした痛みがやってきた。またキスマークか、アンタも好きだね。放っておけばいくつ作られるか分かったもんじゃない。手で顔を半ば押し退ける形で、シャツのボタンを外した。

「…積極的だな」
「俺はいつでも臨戦態勢ヨ?」
「はは、頼もしいな」

 嘘じゃないんだけど。ぐ、と腰を押し付けて屹立したペニスを確かめさせてやれば、ベルトを解いたらしい手が中に侵入してきた。ぐい、と鷲掴みにされて思わず期待に腰が揺れる。早く、その手で扱いて欲しい。俺も獣に変わりはないか。今はセックスする事しか、頭にない。

「……ベルナルド?」

 しかし、待ち望んだ刺激はいつまで経ってもやってこなかった。放置やら焦らしでもするつもりかと思ったが、そういう訳でもないらしい。胸に埋まった顔をよく覗き込むと、気持ち悪いくらい幸せそうな表情の彼がいた。

「おいおい…」

 寝てるぞ、このおっさん。嗚呼確かに、仕事で疲れていたのは認める。しかしどんなタイミングだよ一体。新手のプレイにしちゃあ笑えねえぞ。だらしないこの半開きの唇に突っ込んで起こしてやろうか!なんて、な。こんなネジの足りない男、やっぱり俺くらいしか愛せない。




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