彼が特別という事はない。ある筈もない。不特定多数の中の一人というだけ。一応カウントはされている、その程度。たまにこうしてサービスしてやるのは、その確認というか、忠告というか。愚かな男だ、自分で(抜け出す事も容易い)糸に絡まりに来た癖に、こうして離れようと足掻くのだ。それが自らの逃げ道を潰していると気付くのは一体何時の事なのだろうか。嗚呼、撤回しよう。俺は正しくお前で遊んでいる。これは特別だ、特別。
 俺もまだまだ余裕だな、女を一発で落とすであろう彼の一物を片手であやしながら、冷え切った思考でこの様を見下ろしているのだから。口に収まらない化け物サイズのそれを苦にする、振りをして。ゆるりと視線を上げてその面を拝んでやれば、そのライオンはたまらないと言うように低く呻いた。一層大きくなるそれに心の底から嘲りながら、先端を口に含んで、唾液を絡ませて愛撫してやる。態とらしい水音はせめてもの余興というか、演出というか。射精を促すだけの、事務的な処理。心持ちは仕事をするのと何ら変わらない。少しばかり違うのは、右手と口が疲れる事。

「…っ、ベルナルド…」

 何だ、ルキーノ。お前にそう呼ばれる謂われはない。名前を呼ばれるなら、そうだな、もう少し高いテノールが良い。俺をがんじがらめに縛り付けて支配する、あの声が聴きたい。思いを馳せるように薄く笑みを浮かべると、それに気付いただろうか、僅かに眉を顰める様が見て取れた。笑わせてくれる、正しく俺がそうしたいというに。
 私情を押し込めて、執拗に上下運動を繰り返す。唾液塗れのそこはぬちゅ、ぬちゅと規則正しい音を奏でて。当然の事ながら、その度に忙しなく彼の肩が上下するのが見ていて面白おかしかった。俺が奉仕している、それだけでこんなに興奮しているのだ。欲望に任せて腰を振るでもなく、ただされるがままになっている木偶の坊。嗚呼、可哀想な男だ。こんなどうしようもない人間に捕まってしまったのだから。いっそ早く喰ってくれ、などと飛んできそうだったが、毛頭そんな気はない。残念だったな。
 溢れる先走りには何の感情も覚えず、頬を窄めて性器に吸い付く。根元を扱きながら舌先でちろちろと小刻みに舐ってやれば、簡単な男はそろそろ限界のようだ。だらんと下げられていた腕が漸くこちらへ向かってきたかと思うと、頭をぐいと引き寄せられ、一気に喉までそれを突き付けられた。予想はしていたが、意図せず目尻には涙が浮かぶ。これも演出の内だとすれば、過剰なサービスだっただろうか。
 出る、とか出す、とかそんな台詞を吐いて、これも予想通り、口内に精液が叩き付けられた。未だに硬度を持ったそれが離れる。彼の中では信じられなかったのだろう。頬を上気させながらも、背徳に見舞われて形容し難い表情を浮かべる彼は素敵な見物だった。視線を浴びながら、生温かい廃液をとろりと舌の上で転がしてやる。冷え切った思考はそのまま、何の鼓動の乱れもない。
 見てろよ、ルキーノ。自分でも気持ち悪いくらい口角が吊り上がるのが分かった。この男相手に、こんな表情を浮かべる事が出来る自分に驚かざるを得ない。(嗚呼、これも演出の内か)彼の双眸が釘付けになっていると確信しながら、口に含んだそれを、舌を出して自分の諸手に垂らしてみせた。




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