だって、好きだから。それ以外に理由なんて要るのだろうか。好きなら、その人間の全てをものにしたいと思うのはごく自然な感情であって、現在も過去も未来も丸ごとものにしたいと思うのは当然の帰結ではないか。
 組み敷かれていよいよ美味しく頂かれてしまうであろう彼は、俺の知らないベルナルド。鬱陶しくない髪に、何時もの彼からすれば少しばかり幼い顔立ち。今よりは擦れていないだろうけれど、やっぱり細さは相変わらず。苦労してるんだな、なんて。向けられた瞳は俺の知っているものとは少し違う、不安げなもの。大丈夫大丈夫。記憶はそのまま、躯だけちょっと弄っただけだから。
 何故こんな事をするのかって?はは、そんな、ありふれた愚問をありがとう。混乱してるダーリンも素敵よ。やっぱり、ハニーとしてはキレイな躯を味わってみたいと思うのが道理だと思わない?だって、好きだから。誰よりもあんたの事が好きだから。もう、こんな不毛なやり取り、二度としてやらないんだからな。

「や、…っ、や、め…」

 切っ先を当てがうと、フラッシュバックでもしたのだろうか。頼りない声を漏らしながら、俺の知らないベルナルドは首を振った。あーあ、そんな事して良いと思ってんのかね。俺だけ見てれば良いのに。でも、やっぱり俺を知らないベルナルド、は、詰まらないから。だから態々記憶だけは残してやったんだ。塗り潰して塗り潰して上書きしてしまえば俺の事だけ見るようになるかな。楽しみだな。ぐちゃぐちゃに塗り潰される感覚、一体どんなものなんだろうな。

「ダーリン、だーいすき」

 空しく響く、甘ったるい声音。なあ、あんただって俺の事、大好きなんだろ?だからこうして、躯が真っ二つに裂かれるような思いを再び味わわなければならないと言うに、抵抗もろくにせずただがくがくと怯える事しか出来ないんだ。嗚呼、あんたのそういうところ、本当に好き、だよ。そう、これは好きだから。それ以外に理由なんてない。




101227
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