何だかよく分からないが、気持ちが良い。久し振りにベッドにごろんしたお陰か、羽目を外して酒を浴びる程に飲んだお陰か。どちらにしろ疲れていた事には違いない。はあ、と吐いた息が酒臭い自覚はあった。たまにはこんな日もある。頭の中でそんな他愛もない自慰と自虐を繰り返しながら、先から押し寄せる、ふわふわと浮遊感に似た心地好さにただ躯を委ねていた。
 何処からこの感覚が来ているのか、躯を起こして確認しようと頭では考えるが、余りに酔っている所為かそれもままならない。寧ろこのまま浸っていても許されるような気さえした。止めないで、欲しい。
 アルコールでどろどろに融けた頭でも、流石にこれが現実で、誰かの手によって快楽が与えられている事くらいは分かる。弄られて感じさせられている事も。それがやけに気持ち良い、のだ。イかないかイくかの瀬戸際で寸分の狂いもない快感が強いられる。声を押し殺す事も忘れ、ただ本能に従順に、感じたままを漏らしていた。

「は、っはぁ…、あ…きもち…い…ん、んっ」

 言葉にすれば、その手は更に俺のイイところを探り当てて、どろどろに融かそうと快楽を与えてくる。心地好さに流されながら、ぼうっと、その主を思い浮かべた。こんなに俺の躯を知っているのは、ただ一人だ。目を開けてみるもが、映像が全く入ってこない。初めて、目隠しをされているのだと気付く。嗚呼でも、お前がいてくれるのなら、俺は暗くても平気だよ。だから、お前の声を聞かせてくれないか。

「はぁっ…んん、ジャン…ジャン、なのか…?」

 声が掠れて思うように出ない。俺がいとも簡単に当ててしまった事に驚いたのか、ふと愛撫が取り去られる。かと思えば、脚をぐっと開かされた。何だ、今日はこういうプレイなのか?ジャン。俺の恥ずかしいところ、お前になら全部見せても構わないよ。きっと、お前は口角をに、と釣り上げて笑っているのだろう。ジャン、ジャン。もっと、俺を求めて。
 抵抗するなんて以ての外だ。見られている事ではあ、はあと荒くなる呼吸を知覚しながら、期待に震える躯を持て余していれば、容赦なく左右に開かされたアヌスの中に、指がねじ込まれた。

「ん、あぁっ…あ、はっ…ぁ…」

 恐らく先程までこの指でペニスを愛撫していたのだろう、先走りを絡めたそれは容易く俺の内部をこじ開けるように、侵入してくる。それがたまらなく気持ちが良い。浅ましくも自分から腰を振ってしまいそうだ。もっと、もっと欲しい。お前はこんなはしたない俺に、幻滅するだろうか。
 欲望を抑えようにもその動きを追うように浮いてしまう腰は、もうどうしようもなかった。徐々に激しくなる抜き差しに、鳴く事しか知らない生き物のように、ただ声を上げていた。

「あ、はっ、は…ん、もう…っ」

 入れて欲しい。もっと気持ち良くなりたい。指が抜かれた喪失感に躯を捩って懇願すると彼は、俺をもっと満たしてくれるものを、アヌスにぬるぬると擦り付けてきた。嗚呼、そんなもの入れたら、本当に感じるだけしか出来なくなってしまう。そう自分を追い詰めながらぶるりと躯を震わせると、彼が覆い被さってきた。そして、その柔らかい唇が触れて、あれ、可笑しい。自分でも驚く程にすっと冷静な思考が戻ってくると、そいつを拒むように命令を下していた。
 頬に一発、拳を打ち込む。聞こえた呻き声はやはり、愛しのハニーのものではなかった。一気に理性とやらが押し寄せる。目隠しを投げ捨てると、殴った箇所を押さえて痛がる間抜けな男に(それを言うなら俺はどれだけ醜態を曝していたのだろう)先までの余韻も残さず、吐き捨てた。

「返せ」

 俺の時間を返せ。俺のジャンを返せ。
 嗚呼、頭ががんがんと痛む。こんな時に限って悪酔いするなんて。何を言いたいのか分からない、とでも言いたげなそいつの顔を一瞥、次いで溜め息。もはや咎める気さえ失せた。




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