「ほうら、入ってるわよお、ダーリン。分かるー?」

 口元が緩むのを抑えきれない。突き付けられた現実は余りに甘美なものだった。
 どうしてこうなったのか、と誰かが問うた。また誰かが、こうなるべくしてなったのだ、と答えた。その貧弱な躯にこびり付いた汚らしい体液は、もはや俺のものなのか、彼のものなのか分別出来る筈もなかった。そんな頭、最初から持ち合わせていなかったのだ。
 ぞくぞくと全身を突き抜ける快感は、紛れもなくこの男を自分の好きなように犯している、から。ともすれば俺を全て受け入れるのではないかと疑う程に、彼は俺に一方的な(だと錯覚している)好意を向けている。なあ、知ってたか、ベルナルド。俺だって、お前の事が好きなんだぜ?こうして、ずたずたに犯したくなる程に。

「だっせえな、男にペニスぶっ込まれて、そんなに感じるなんてよ」
「…は、っ…ん、ん…」

 より一層頬に赤が差すのを認めて、鼻で笑ってやった。あー、こいつの中、どうしようもなく気持ちいい。強すぎる快楽に顰められる眉。きつく閉じられる瞳。それらは一々俺を高揚させ、もっと酷い事をしてやりたくなる。他でもない愛しのダーリンの為に。
 ずちゅ、ずちゅと音を立てて律動を繰り返す。ひっきりなしに漏れる喘ぎは聴いていて心地好かった。
 捲ったシャツの合間から指を滑り込ませ、乳首をぎゅ、と摘まんでやる。ひ、とか細い声が喉から溢れ、中の異物をぎゅうぎゅうと締め付けるのがありありと分かった。ほんと、年甲斐もなくかわいらしいやつ。どうしようもねえな。
 もしかして痛いの好きだったりするのかな。湧いてきた好奇心を満たす為に、伸び切った爪を乳首に立てて、ぎりぎりと食い込ませた。びくびくと魚のように跳ねる躯が面白おかしくて仕方なかった。

「あれ、もしかしてダーリン、マゾだったりするのけ?」
「は、…っ、」

 不安げにこちらを見上げながらも、否定はしない。それは敢えて言うなら、お前の為ならマゾにだってなれる、とでも言いたげな。何処までも救えない奴。本当に俺が好きなんだな。
 何処までその姿勢を保てるのか知りたくて、今度は乳首を指で挟んで力を入れてやる。加重していくに連れ引き攣った顔になっていくのが愉快で仕方なかった。それでも、止めろ、とか、嫌だ、とか否定の言葉を一切吐かない彼には脱帽さえする。

「なあ、こうされたいって、思ってたりしたのかよ」
「…は、どう、だろう、ね…」

 そんな答えありかよ、狡い。そうやって大人は大事なところを濁すんだ。愛するハニーに笑ってみせるそのしがない男に苛立ちを隠す事もせずに、口を尖らせて。爪痕の付いた痛々しい乳首へと、今度は顔を埋めた。(きっと、その俺に向ける顔を直視出来なかっただけなのだ)

「ひ、っ…」

 息が掛かると一瞬身を竦めてか細く鳴いたが、舌をねっとりと這わせてやるとその声音は艶を帯びたものへと変貌していく。

「乳首、好きなんだな。すげえ勃ってる」
「あっ…は、あ…」

 緩み切った口元。それはきっと、俺もそうなのだろう。感じている様を無意識に一瞥してしまう俺は、きっとどうしようもなくこの男が好きなのだ。まあ、きっとこいつが俺を好きな度合いには負けるけど。
 唾液を絡ませて舐めてやると、たまらないと言うように頭を振って嬌声を漏らした。もう片方の乳首は変わらずぐりぐりと虐めたまま。その痛みと快楽に織り交ぜられた感覚に翻弄されてただひたすら喘いでいる彼は、俺をこの上なく煽った。

「なあ、吸ったらもっと気持ち良いんだろうな」
「は…っあ、あ、…オネダリしろ、って…?」

 よく分かっているじゃないか。嬉々としてこんな仕打ちを受けているあんたには簡単すぎたかな。快楽だけではない、俺と一線を越えた事に歓喜している様子がありありと分かるのだ。刺激してもいないのに、こいつのペニスは痛い程に勃起したまま。こんな俺と結ばれた事が、そんなに嬉しいかねえ。

「(ジャンカルロの事がだあいすきな)ダーリンなら、言ってくれるって信じてる、」

 我ながら残酷な事を言うものだ。こんな言葉を言わずとも、この男は始めから選択肢を捨てている。他でもない愛しのハニーの為に。肩で呼吸を繰り返しながら、濁った瞳は真っ直ぐに、俺を見据えていた。

「…、もっと、深くまで…お前を感じたいよ、…ジャン」




101204
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