始めに断っておこう。俺は彼を正しく愛している。その形が歪んでいるとも病んでいるとも思わないし、第三者から見てもきっとそうだ。俺は真っ当な人間だ。ただ、彼がこうされるのが好きと言うものだから、その意を尊重して止むなく、彼の性癖を受け入れているんだ。これも愛するダーリンをより理解しようとしているから。嗚呼、俺ってなんて恋人思いで優しい奴なんだろう。
 ただ今、執務室で隠れん坊中。不特定多数の鬼に見付からないように隠れたつもりだけど、耐え症のないこいつがバラしてしまう危惧がある。まあその場合、侮蔑の対象に当たるのはこの男なのであって、しかもそれを嬉々として受け入れるのだろう。だって、彼は俺にこうされるのを、心から望んでいるのだから。(そうだ、俺は寧ろ被害者なのだ)

「は、は…ジャン…っ、ジャン…」

 甘い吐息混じりに俺の名前を呼ぶお仕事モードの(筈の)ベルナルドは、間抜けにも下半身を曝したまま、震える躯を持て余している。さらけ出した切っ先を俺の頬に擦り付けようと腰をだらしなく振り、自慰にも似た快感に酔いしれている。気持ち悪い。気持ち悪い。始めから人払いをしている癖に。こんな自作自演のシチュエーションに燃えるなんて、おじさんどうかしてるぜ。仕様もないこいつを愛してやれるのなんて、俺くらいしかいない。
 片手で緩慢に上下運動を繰り返しながら、舌をべろりと出して態々こいつが好きなように、先端を舐ってやる。今にもイくんじゃないかと思う程に喘ぎ声を漏らし我慢汁を滲ませるそいつの視線は、一直線に俺へと向けられている。夢中になっちゃって。可愛いねえ。唾液をどろりと垂らすと、より一層間抜けな声を出して、たまらないと言った顔をする。うわ、気持ち悪い。思わず失笑してしまったが、どうやらそれさえも興奮の要因らしく、握ったペニスがびくびくと脈打つのが分かった。感情も込めない罵倒さえ、俺にされるなら気持ちが良いって?とんだマゾヒストだな。こんなに卑下してるってのに何故見離さないのかって、そりゃあ勿論、他でもないこの男を愛しているからだ。惜しげもなく切なげな声音を曝す彼に、先とは違い思わず頬が緩んだ。

「あっ…、もっ、と…」
「もっと…なあに、ダーリン…?扱いて欲しいのかしら?それとも、蔑んで欲しい?」
「ん、は…どっちも、…欲しい、ジャン…っ」

 うわ、鳥肌立った。返ってくる答えは分かり切っていたけれど、モノホンはやっぱり違うね。癖になる不快感にすっかり嵌まってしまった俺はこいつ以上に間抜けな顔をしているのかもしれない。俺から何の反応も得られないのが不安なのか、荒い呼吸を持て余したまま眉尻を下げるベルナルドに、溜め息をひとつ。さあ、覚悟を決めろ。

「どっちも、だって?しょうもない変態だな」
「はあ、あっ…」
「うっわ、気持ち悪い、何言われても感じるとかマジ勘弁」

 大袈裟なくらいが丁度良いんだろ?分かってるぜ。べろべろとまるで犬がするように先端を舐めながら、射精のみを目的とした、恐らく情も感じられない愛撫を施してゆく。手がぬるぬるで気持ち悪い。早く、全部綺麗にしてもらわなくちゃな。ぬちゃ、ぬちゃと音を立てながら責め立てていくと、呼吸が浅くなるのが分かった。好い加減、同じ事ばっかりやると手疲れるんだよな。イくなら早くイけっての。

「ほら、無様に出してみろよ…!見ててやるから」
「あ、っ…はぁ、は…っ…!ジャ、ン…ジャン…っ…ああっ!」

 破裂寸前のそれを口に含んで頬を窄めて強く吸ってやればあら簡単。口の中に広がる独特の味に、思わずそれを舌の上で転がす。だらりと脱力しながらも視線をこちらに向けている彼に、にこりと笑ってやれば、少し恥ずかしそうに頬を染めていた。なあ、これで終わりだと思ってるだろ?まだまだ甘いな、ベルナルド。

「は、…ジャン、…?」
「んー?」

 いきなり立ち上がって、しかも上に跨って、何かと思ってんだろ?偽善者染みた笑みを貼り付けたまま顔を近付けると、流石に気付いたらしい、びくりと、肩を跳ねさせた。ちろりと白濁に濡れた舌を覗かせると、明らかに顔から色が失せていくのが分かった。はは、新鮮で面白い。俺とキスするのと、自分の精液ごっくんするのと、どっちが勝つんだろうな。このまま唇を重ねたら分かるのかな。なあ、知りたい知りたい。
 眉根を寄せながらも顔を背ける事はしない。そんな些細な抵抗にさえ感心するよ、ベルナルド。それでも、指が顎に掛かると、どうやら覚悟を決めたらしい。その唇が怖ず怖ずと開けられた。(嗚呼、何処まで狡猾な男なのだろう)俺は、ぞくりと背筋を駆ける感覚を覚えながら。舌をべろりと出して、ねっとりとした廃液を、垂らした。




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