煙草を吸う、インクで汚れる、髪の毛を掻き上げる、ハンドルを握る、銃を撃つ、ピアノを弾く、眼鏡を上げる。俺を、甘やかす。その手は見惚れるくらいに綺麗で、壊れ物みたいに綺麗で。(具体的に、と聞かれたら答えようがないのだけれど)俺のものとは似ても似付かないようにさえ感じるそれに、絡められる事を心底望んでいるんだ。
 今だってこうして、酒を酌み交わしながら他愛もない話をしているというに、気付くと手を重ねていちゃいちゃ。こいつのお触りは時に言葉より雄弁だ。俺の話を目を合わせて聞きながら、その手は別の意志を持ったように愛しげに何度も何度も絡んでくる。もう、懲りない奴だな。

「…ベルナルド」
「ん?」

 こちらを飽きずに見詰めながら、小首を傾げる。ふわりと柔らかく微笑むそいつは、きっと俺から触れられる事なんてゆめゆめ考えていないのだろう。馬鹿なダーリン。漸く愛するジャンカルロに振り向いてもらえたってのに何処までも一方通行なんて、どれだけ寂しい野郎なんだよ。今俺の隣にいるのはあんたで、あんた以外では有り得ないのに。俺は、熱を持ったちっぽけな人間だ。壊れ物なんかじゃあない。どちらかと言えば、お前の方が。そこまで考えたところで、臆病なのは俺も同じなのだと知覚する。
 諫めようと名前を呼んだにも関わらず、そう気付いてしまった事で一人面食らってしまった俺に、何も気付いていないベルナルドは急かす事もせず、言葉を待っている。嗚呼、そんなところまでムカつく。
 腹癒せに唇を突き出して、鼻の頭にキスしてやった。予想通り面食らった顔。はは、かわいい。そうだ、他でもない俺が、こんな風に彼に触れる事を考えていなかったんだ。もしかして、悪い癖、移っちまったか?

「…いきなりかわいい事、してくれるね」
「おじさん滾っちゃう?」
「おいおい、おじさんは止めてくれ」
「…滾る方を否定してくれよ」




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