一つ聞くよルキーノ。
肺を満たす紫煙をゆっくりと吐き出す。細く長く、天井へ向かう白いそれで眼前の男の顔には靄がかかったようで、しかし彼もまた不快そうに眉頭に皺寄せてだんまりを決め込んでいるのだから、実際暗鬱とした霞か何かに飲み込まれていたのかもわからない。問うた瞬間に、彼は呼吸以外、いや、それすらも忘れたかの様にその場に立ち尽くしていた。俺に言わせればこの程度の言葉で感情を漏らすだなんて、面白可笑しさすら覚える。(勿論逆の立場であったとしても、ね。)
知らなかったよルキーノ、お前がそんなに俺を思っていたなんて。俺如きに現を抜かしているだなど、とんだお笑い草だと思わないかい、ミスタ・プレイボーイ。もしそれが世間様に露呈したら同性愛者云々以前にね、天下のドン・グレゴレッティが手も足も出ない相手がいる、なんて下世話なタイトルの号外がデイバンの街を舞うさ。だからルキーノ、俺なんか止めて他の女にでも(男にでも)、さっさと切り替えるべきなんだよ。俺がお前の思いを受け入れる日なんて、それこそ終末のラッパが鳴り響く時くらいなものなのだから。


『嫌悪か無関心。どちらか一つならば、どちらを選ぶ?』


ガラスを磨いた上質な灰皿へ気に入りの煙草を擦りつければ、ひしゃげた筒から葉が零れ、それはさながら虫を捻り潰した様な惨めで醜いものに感じられた。そこで立ち尽くしたまま言葉すら発しないお前を見ているようだ、とね。なぁ、ルキーノ。お前のそんな顔、俺は見たくなかったよ。尤も、そんな顔をさせたのは紛れも無く俺自身だが。
俺が信じているものは人間の感情の様にあやふやで、賽の目の如く不確かなものではないんだ。そんなくだらない感情にほだされ、振り回されてやるほどお優しい人間じゃあない。だから早く俺なんか止めて、お前に相応しい相手を見付けておくれ。長い付き合いのお前を愛す事は無くとも、お前への関心を捨て去るだなど度台無理な話。お前が他の誰かを抱き締める姿を望んでいる事は真実だよ。悲しい人、どうか幸あれ。お前は愛される為に生まれてきたのだから。
そしてお前が俺から離れていく事で、俺自身も消す事が、それを口実に俺を誤魔化す事が出来るものが一つ。お前は気付いているのかな、今のお前は俺と同じ立場に立たされているんだよ。お前に触れられる度に、お前に、俺が、重なる。
俺には愛してやまない人がいる。そしてその背中は決して手が届くような場所には存在しない。まるでお前が俺を見ているようだと、そう思わないかい?
お前が俺に向ける眼差しが、あの背中を追いかける俺とあまりに似ていて、お前を介して広がる世界へ一抹の希望を抱かせる。俺の恋慕が、下手したら許されるのではないか、と。
解ってくれとは言わない、だけどもし、お前が俺の目の前を去り、この噴けば消える悶着を無かった事にして他の何かを得る時が来ればそれは俺にも重なるんだ。お願いだよルキーノ、どうか幸せに。お前は愛される為に生まれてきた、だからそんな顔をしないで。お前の中の俺が消える時、俺の中の思いも薄れる。それだけの事じゃないか。
皆が笑って暮らせる世の中なんて絶対にあり得ない、だとしても、笑顔が多く在ればいいと願う心は本物だよ。そして勿論、お前の笑顔だって含まれているんだ。


もしもあと2年、5年、10年。彼との出会いが遅ければ、お前を受け入れられたのかもしれないのにね。




101201




るいさんからいちまんひっとのお祝いに頂いてしまいました…!
どうしよう真面目に震えが止まりませんなにこの愛しいベルナルド儚すぎて抱き締めたいですやっぱりるいさんは神様だったんですね知ってました!るいさんのルキベルすきすぎて息が出来ません…
本当にありがとうございました…!

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