冗談も大概にしてくれ。ふと椅子に座らされたかと思えば、後ろ手に縄か何かでご丁寧に何重にも縛られた。甘んじてそれを受け入れて抜け出す気もない俺もどうかしているとは思うが、それを持ち歩いているこの男もどうかしている。こいつを含め、数多の人間の体液が染み着いているかと思うと怖気が走る。抵抗する気などない癖に、上辺を繕う為だけに躯を捩ってみせる。男の表情は変わらない、何を考えているか分からない。俺がどんな姿を曝したとて、その顔色が変わる事はないのかもしれない。どうしてこんな男に惚れてしまったのか、自分を呪いたくもなる。
 罵言を吐く事さえままならない。ただ目の前で見せ付けられるショーを眺めているだけしか出来なかった。勿体ぶるようにひとつひとつシャツのボタンを外していく男。その色香の欠片もない貧相な躯でよく俺を誘おうと思ったなと尊敬する。(間違いなく俺には効果があると分かり切っているから、だろうが)

「こういうの、好き、だろ」

 その、好きという単語をこの男の口から聞いだけで心臓が鷲掴みされたような気がする。情けない。断固としてそれを否定しなければならない筈なのに、息を一瞬止めてしまった俺にその猶予が与えられている道理もなく。ふ、と頬が僅かに緩んだかと思うと、指先で戯れに顎を掬われる。自然と目がそれを追い掛ける。末期だ、と頭の中で誰かが嘲るが、それ程でもない。彼の一挙一動にこうして振り回されてしまう程度には末期だ。嗚呼、此処には馬鹿しかいないのか。
 指は流れるように、首から胸へ、胸から下腹へ。慣れた手付きでベルトを解かれ、スラックスと下着を下ろされ、あれよあれよと言う内に息子とご対面。見事にいきり立ってやがる。今更断っても説得力がないが、俺はノーマルだ。彼の一挙一動にこうして興奮してしまう程度にはノーマルだ。嗚呼、俺は何時からオチ担当に降格したのか。

「ほら、やっぱり好きなんだろ」

 一笑。勿論目は笑っていない。まあ、確かに、あんたの事は好きだ。それは認めよう。しかしながら、肯定を返す気にはなれない。俺はゲイでもなければ、マゾでもない。ただ単に、惚れた人間がどうしようもない男だったってだけの話だ。
 小さく溜め息を吐けば、目の前の男は憎々しくも溜め息を吐きたいのはこちらだ、と言ってのけた。それならどうしてこんな戯れをする気になったのか、小一時間問い詰めたい。こんな間抜けな格好をして思う事でもないが。彼はまた僅かに頬を緩ませて、頭だけで抗う俺の上に跨ると、緩やかに腰を揺らす。そしてその蕩けるような声音で、耳を擽ってみせた。

「入れたいか、ルキーノ」
「……ああ、」

 おいおい、冗談も大概にしてくれ。無様な自分へ頭の中の誰かがそう嘲る。逃避以外の何でもない。嗚呼しかし、きっとこの男にとってはこんな戯れに楽しい、なんてひとつもないのだろうな。ほら、だって一度もその瞳は俺を見ていない。




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