扉に頭を押し付けられる。鈍い音がした。侮蔑を含んだ笑みが一直線に向けられたお陰で、痛みは感じなかった。(尤も、ハニーにされるなら何でも気持ち良いのだが)刺激的な愛情表現に、痺れるような快感が背筋を駆け抜ける。嗚呼、分かっているよジャンカルロ。そうやって俺を嘲りながら、お前も興奮しているんだろう?もっと罵ってくれよ、その欲望の切っ先を俺に向けてくれよ。ただされるがままになっているだけじゃあない、頭の中ではお前を愛して愛して、どうやったら喜んでくれるかを一心に考えているんだ。そうして尽くす自分自身にも酔いしれているのだから救いようがない。
 視界には何も映らない。隣のホームで誰が俺を見ていようが、次の駅でこの扉から誰が入ってこようが、俺には関係のない事だ。全く、馬鹿だなジャンは。こんなスリリングな場所を設定しなくとも俺は、お前が俺をどう犯すか、どんな顔で犯すのかしか興味がないのに。嗚呼、だから、何も見えないこの体勢はちょっと寂しいな。それでもお前の事なら手に取るように分かるんだ、何故なら俺は世界中の誰よりお前を愛しているのだから。

「なあ、どうしたらあんたが苦しむのか、教えてくれよ」

 それは頬が緩んでいる声音。釣られて俺も顔面崩壊。尻を思い切り蹴られたが勿論彼の望んでいるような反応を返せる筈もない。残念だったねジャン。どうしたら俺にとって拷問になるのか一心に考えているんだね、愛しい愛しいジャン。下半身を曝した間抜けな格好で、ともすれば扉に屹立したペニスを擦り付けてしまいそうだった。(そうしてまた虐められるのを望んでいる)
 漸く対面になるお許しを得たらしく、髪の毛を引っ張られて向きを直された。短気な気紛れハニー。愛しくて仕方がない。

「お前、生きてて恥ずかしくねえの?マジ、こんな変態と同じ空気吸いたくねえんだけど」

 はは、今日も絶好調だね。答えが返ってこない事を分かっていながら問い掛けてくるジャンカルロ。お前も、虐める自分自身に酔いしれているんだろう?なあ、俺達相性ぴったりだと思わないか?口に押し込まれていたネクタイの所為で上手く発音出来そうにない俺に、じりじりと歩み寄る。本当に楽しそうで何よりだよ。愉悦に歪んだ顔、可愛いなあ。
 思わず口角から唾液を垂らせば、気持ち悪いと一蹴され、膝でぐりぐりとペニスを刺激される。たまらなく気持ち良い。はしたない声を聞きたいのかはたまた気紛れか、もはや使い物にならないネクタイを指をわざわざ奥まで突っ込んで取り去ると、どうやら次の駅が近いらしい事を知らせた。だから、言っているじゃないか、俺には、俺達には関係のない事だって。その間もずっと乱暴に膝で愛撫しながら、心地好い低音で耳を擽ってきて。

「ほら、止めてくれって言ってみろ、よ」
「…はあ、はっ…や、止め、ないで…ジャン、っ…」

 今度は唾を嚥下させる音。俺以上にお前は分かりやすい。そんなところも好きだよ、ハニー。止められないのはお前も同じの癖に。さあ、次はどんな仕打ちをしてくれるんだい?




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