何度も何度も、髪を撫でられる。流れていく指は、何時もこうして俺を甘やかしてくれる。その愛おしむような動きは決して煩わしいものではなく、そのひとつひとつを頭の何処かで追っている。要は、されるがままに、ベルナルドの腕の中に収まっているのだ。嗚呼、これが幸せってやつか。
 生まれてきてくれてありがとう、そう彼は言った。甘ったるい台詞にはもうとっくに耐性が出来ていたつもりだったが、どうやらそうでもなかったらしい。出来る事ならずっと聞いていたいと思う。中毒とも言う。おかしいな、俺はこの男に心底惚れているみたいだ。
 髪を撫でる指はそのままに、こめかみの辺りにキスをひとつ落とされた。顔が綻びるのは自覚あり。ゆるりと視線を向けると、色気むんむんの目とご対面。そんな顔したって、もう入れさせてやんねえよ。これ以上やったらあんたの腰が逝っちゃうんじゃないの、ダーリン。

「…好きだよなあ、あんたも」

 発した声は少し、掠れていた。少しは加減しろっての。心地好い腕に収まったままそう言ってやると、今度は唇に、音を立てて口付けられた。それだけで、俺を黙らせる事が出来るんだ。くそ、狡い。ムカつく。
 少し唇を尖らせたのを目敏く見付けるそいつは、俺の為に、その顔をくっしゃくしゃにして笑った。

「ジャン、愛してる」
「それ、さっきも聞いた」
「ああ、何度でも言おうじゃないか」

 あ、そう。だったら好きにすれば。自分の事のように、否、違う。俺、だから、こんなに喜べるんだ。こいつは、俺の為なら間違いなく全てを擲つ。それに愉悦を覚えるでもなく、少し、怖くなった。
 淀みなくすらすらと出てくる音が耳を擽る。きっと、ベルナルドは気付かない。気付く事もないのだろう。だから、今はただ、その甘ったるい麻薬に酔って、身を委ねる事にした。




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