明日死ぬとしたら、俺はどうするんだろうか。
深い意味もなく仕事の合間にそんな事を思った。もし明確な死期を知ることが出来れば誰だって思い残す事ないよう、例えば女好きならベッドに入り浸って最期のセックスに勤しんだり、食通なら死ぬまで豪勢な料理に囲まれて胃袋の限界に挑戦したりするのだろうか。
俺の場合はどうだ。
ろくでもないがティーンズのギャングかぶれが抱きそうな願望は一通り叶ったし、それなりに肥えた舌は最高のものを知っているからこれといって食ってみたいものも思い浮かばす、タマが萎むまでヤりたいなんてのも(認めたくはないが)歳のせいかしっくりこなかった。カタギとして生きていたらどうだったのかと思う事もあるが、今更足を洗う選択肢はいまいちピンとこない。ジャンの傍を離れることは寂しいが、よく考えれば死は必ず訪れるものだから、別れの日は遅かれ早かれ来る。明日と解れば最上級の敬愛を以って有難う、お前が好きだ、と笑って泣きながら抱きしめるだろうか。
なら俺には何も思い残す事はなくいつでも死ねる事になるがそれも違う気がする。


「最期にしたい事も思い付かないとはねぇ…」


哀しい人間だ、と自嘲すると何故か不意に、ルキーノの背中がちらついた。何かと俺に世話を焼いては戯れに愛を囁いてくる仲間、どちらかと言えば少々飼いにくいペットのような感覚を抱く男だが、何故だか急に、無性に顔が見たくなったのだ。一度思ったら最後、初めこそぼんやりしていたエッヂがくっきり奴の背格好を象り、俺の名を呼ぶ声までハウリングしてきやがる始末だ。面倒臭い、なんだってジャンではなくこいつなのだと酷く冷めた思考で頭を振る。と同時に俺の手は発信専用機の受話器を持ち上げ、ルキーノが向かったエリアの程近い公衆電話の番号のダイアルを回していた。
そしてそんな時に限って小金目当ての電話番ではなく、顔と名前が一致する身内に繋がるのだ。全く、本当に面倒臭い。


「…大至急、ルキーノを呼び戻せ。緊急事態だ。」


自分でも驚く程低い声色で告げ、受話器を置くと終話を知らせるベルがやけに大きく響いた。死期を想像して顔が見たくなるなんて。仕事を放棄させて呼び出すとは俺は一体どうしたのだろうか、ああもう考える事も億劫だ。暑さで頭がいかれたんだと他人事の様に納得し、思考をすげ替える。
律儀なライオンは息せき切って戻って来るだろうか、そもそもあの臆病な子供をライオン等と形容したの誰だったか。そして何も問題ないよ、とタネを明かせば眉を吊り上げて怒鳴るのか、それとも静かに睨み据えて怒気を表すのか。どちらにせよ、「どうしてもお前に逢いたくなったんだ」と普段と異なる声色で囁けばきょとんと面食らった後にガキみたいに喜ぶんだろう。
まるで獅子の子供、仔ライオンだ。肉を食わせないで育てた肉食獣は人を襲わず草食動物よろしく大人しいと聞いたがまさにその通りじゃないか。一人吹き出してしまった。いちいち可愛い奴だ。さぁ、可愛いルキーノ。早く帰っておいで。
(次に目を覚ませばお前に逢いたいと願った気持ちおろか、全てが元に戻ってしまうのだから。)




100807

愛憎PARADOXのるいさんより頂きました!
ベルナルドの色気が半端ないです…!るいさんの書かれるベルナルドはほんと本人だと信じて疑いません。ルキーノが不憫だけどまたそこが素敵です。
何時も構って下さってありがとうございます、これからも仲良くしてやって下さい…!
どうもありがとうございました!

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