たまにはこうして、坊やに躯を委ねて、やりたいようにさせてやるのも悪くないと思った。ただひたすらに、盲目的に、持てる全ての力で俺を落とそうとしているその姿は、涙ぐましいものがある。これを気紛れだとかそういうプレイだとか解釈して、彼はきっと顔を歪ませるのだろうが、思い上がりも甚だしい。これは俺が彼にしてやれる、唯一の愛情表現だ。
密着した躯からは、良い馨りがした。香水の匂いと、男の汗の匂い。女だったら或いは、この馨りだけでシーツまで濡らしてしまうのかもしれない。まだまだ加齢臭には程遠いな、なんて思わず喉から飛び出してしまいそうになったが、これでも空気を読む力はあると思っている。既の事でそれを抑え、今は彼に、彼の齎す快楽に、溺れる事にした。何処までも、俺は性格が悪い。よりにもよってこの日にこんな、手を差し伸べるような真似をするなんて。
指が、目の前に差し出された。敢えて視線だけ彼に向ければ、目でその先を強要される。抵抗しないならどろどろに感じさせてやるよ、とでも言いたげなその眸は、ぎらつき、俺だけしか見えていないようだった。ぐ、と下半身に硬いものが宛てられる。嗚呼、簡単な男だ。もう待ち切れないのか。これだからお前は何時まで経っても、
精一杯の貶し愛が蔑みに変わる前に、俺は舌を絡めた。太い男の指が、奥へと侵入してくる。唇で緩く刺激しながらしゃぶりつけば、彼がごくりと唾液を嚥下させるのが分かった。
俺だって人間だ。それなりの雰囲気ならそれ相応の演出はするし、興奮だってしない訳じゃあない。これでも空気を読む力はあると思っている。不自然でない程度に声を漏らしながら、指を愛撫する。時折戯れるように甘く噛んでやると、その度僅かに反応を見せる。そのかわいらしい反応を曝させたいが為に、彼のペニスを口淫してやるように態とらしく音を立てる。我慢ならないといった様子で、次第に焦燥の色が滲んでいく顔を見るのは実に心地好かった。自覚はあるのだろう、それを誤魔化すように、口腔の指がぐるりと回される。支配出来るなら何でも良い、と考えたのだろうか、(そんな頭、ある筈がない)咽喉へと、その異物を突き立てられた。思わず嘔吐いて顔を歪ませれば、ざまあみろ、とでも言いたげに、漸く指を取り去った。
「…餓鬼」
ゆっくりと。癇に障るように甘めの声音で耳を擽ってやれば、ぎりりと奥歯を噛み締める音が聞こえた。ともすればあのお決まりの台詞でも飛び出しそうな顔だった。僅かに上がってしまった口角をしっかり捉えていたらしい彼は、表情を見られたくないと思ったか、それともただの気紛れか、そういうプレイなのか、眼鏡を取り上げた。まさか、これが返して欲しかったら、とでも言うつもりなのだろうか。
その愚行を認めるように(今に始まった事じゃあない)笑ってみせれば、濡れた音を立てて瞼へ口付けられた。擽ったさに顔を背けようとするも、啄むように何度も戯れる。柄にもなく随分と甘えるものだ。そのまま降りた唇は、眸へとぶつかった。自分の呼吸が一瞬止まるのが分かった。そろり、と伸ばされた舌が、ねっとりと目を舐め上げる。いとおしいものをかわいがるようなもどかしい愛撫。
表に出す事はしなかったが、俺は動揺していた。抵抗しようと思っても出来ない程に。それは彼に対してこんな感情を抱いた自分に、だ。一つ、小さく息を吐く。穏やかに過ぎ去ったそれの後に残った好奇心をゆるりと向けた。
「その調子だよ、ルキーノ」
見せ付けるように、舌舐めずりをする。効果は抜群だ。さて、次は一体、何をしてくれるつもりなのかな。何時になったら俺を落としてくれるのか、楽しみで楽しみで仕方がないよ。
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