まるで赦しを請うようにすり寄ってくるその男を、何処の誰がライオンと呼ぶのだろうか。阿呆らしい。(呼ばれている訳ではないが)不釣り合いな愛称に、気付けばふ、と声が漏れていた。
「…考え事か?」
まあ、ね。君の事を考えていた、とでも言えば良いのかな。笑みで返せば、眼鏡をすっと外された。くらりとする視界の中で見る彼は、少し眉を顰めて、拗ねているに違いない。案外かわいいところもあるじゃないか。宥めるように髪を撫でてやれば彼は何も言わず、顔を埋めると、唇を強く首へ押し付けてきた。困ったな、痕なんて付けられたらまたハニーに嫌な顔をされるじゃあないか。
少しどころではなくあからさまに眉を顰めて拗ねる恋人の顔を思うと、自分の顔に貼り付けられた笑みは当分剥がせそうになかった。
100612