少しばかり借りた酒の力のお陰で、今の俺は自分でも分かる程に上機嫌だった。高揚している、とも言う。いたずらに年ばかり食ってきたが、こうして誕生日を祝ってくれる恋人がいるというのは嬉しいものだ。
 重たい躯を委ねるようにベッドへ雪崩れ込むと、お待ちかねだったであろうハニーに頬擦りした。くすぐったそうにしながらも、彼は背中へ腕を回し、軽く叩いてきた。まるで子供をあやすような所作に、喉から出る笑いを抑えられそうになかった。恐らく顔面も破綻していたのだろう、呆れた声音が仕向けられた。

「何だよ、気持ち悪い」
「はは、ベッドの中ではご機嫌ナナメかな、ハニー?」
「はいはい…ダーリン、早くアタシを頂いちゃってー」

 投げやりにしか聞こえないが、それでも興醒めする事はなく。寧ろ興奮していくばかりだった。触れるだけのキスをひとつ落として、(本当はもっとしたかったけれど酒臭いから止めろ、と一蹴された)胸元へ手を滑り込ませる。みぃつけた、なんてまたオヤジとか言われそうな台詞を吐いて、乳首の位置を当てると、指で摘んでやる。ん、と彼から切なげな声が短く漏れると、更に自分の顔に笑みが刻まれるのを知覚した。これじゃあまた気持ち悪がられるな。そんな余裕を与えてやったら、の話だけど。
 そこを少しきつめに挟みながら、指の腹で転がしてやると、は、は、と徐々に呼吸が荒くなっていく。本当に乳首が好きだな、なんて言葉を喉に押し戻して。感じている顔を見られないのは心苦しいが、頂けるものは全て頂いてしまわないと、ね。頬から首へ、鎖骨へ、胸へ舌を這わせながら移動すると、まるで吸われるのを待っているかのような、かわいらしいそこへ吸い付いた。

「あっ…、あ…」

 ぎゅ、と、背へと回された手が握り締められる。ちゅぱちゅぱと音を立てて吸ってやると、鼻から抜けた甘い声音が溢れた。もっと、鳴かせてみたい。単純な思考に突き動かされるがままに、唇で緩く刺激しながら舌先でつつけば、躯を捩って快感に耐えているようだった。愛撫に夢中になるばかりの俺は、自分でも分かる程に冷静さを欠いていた。呼吸が処理しきれない。このままでは腹上死コースかな。うん、それも悪くない。

「っん、ジャンの味がする、は、っ…」
「はっ、あ…そういう事言うな、変態…っ」

 嗚呼、やはり御免だ。彼を思う存分堪能してからでないと、死ぬに死ねないな。減らず口を叩くジャンが愛しくて仕方ない。唇を離し、唾液で濡れてらてらと光るそこに息を吹き掛ければ、一層色付いた、気がした。乳首ばかり責めるのも良いが、好い加減機嫌を損ねてしまいそうなので、ターゲットを変更する事にしよう。
 異常な程に分泌される唾液を、胸だけでなく腹や腿へもだらりと垂らしながら、(単に口が閉じられてないだけだが)標的として視界に捉えたのは、下半身の中心にあるそれだった。例外なくそこへも生暖かい液体が降り注ぐ。優しく手を添え扱けばにちゅ、にちゃといやらしい音がした。仄かに鼻腔をくすぐる、ジャンの匂い。早く、早く、食べてしまいたい。否、まだだ、まだまだまだ。舌で舐って、先端から少し滲んだ我慢汁を味わって。彼という人間を構成する体液を体内に取り込んで、嗚呼、考えただけでイきそうだ。それから、それから、

「は、ぁっ、ベルナルド…全部、声、に出てるぞ…っ、あ」

 本人を前にして、自慰をしているような感覚だ。ジャンの感じている声を聞いただけで、気持ち良い、のだ。だだ漏れだろうが何だろうが、関係ない。
 まるで媚薬など仕込まれたかの如く、世界が反転しているような錯覚に陥っていた。(本当に反転していると気付いたのは、それから少しして、だった)




100618
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