・教師ルキーノと高校生ジャンさん
・ルキ→ベル→ジャン




 何が好きで冴えないコンビニ店長に恋をしなければならないのか。何が好きでそいつが焦がれている高校生の担任をしなければならないのか。何が好きでその容態を見に保健室まで来なければならないのか。養教はどうした、生徒指導はどうした、まさかそれまでサボりなのか。
 頭をがりがりと掻きたくなる衝動を抑え、保健室のドアを開ける。ベッドに誰か連れ込んでいないかと危惧したが、流石にそれはないらしい。不幸中の幸いと言ったところか。しかし貴重な空き時間を潰す羽目になったのだ、それくらい望んでも罰は当たらない筈だ。
 カーテンを開ければ、俺の気も知らずすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てる問題児と御対面。

「…おい、狸寝入りか」

 返事はない。当然と言えば当然だ。睫毛が長いとか寝顔が可愛いとか、そんなありがちな感想を持つ事はない。ただ、口を開かないだけ未だマシなだけだ。あいつは、こんな奴の何処が良いのだろう。惹かれる何かがあると言うのだろうか。相変わらず妄想に耽っている姿が目に浮かぶ。それも含めて好きだなんて俺も情けない。
 壁一枚隔てたような、何処か冷めた目で一生徒を見下ろしていれば、何故だか指が唇に伸びていた。世間一般的に言うであろう艶やかなそこをそっとなぞると、規則的だった吐息がふと止まったように感ぜられる。舐めてきたら、どうしようか。否、俺がこいつに何の興味もないように、こいつが俺を誘うなど、万に一つもありはしない。
 下らない。俺も疲れているのかもしれない。すぐさま手を離すと、深い溜め息を吐いた。視線を逸らせば早くもそいつは寝返りし、俺に背を向けていた。帰れとでも言いたいのだろう。総合1にでもしてやろうか。
 掛け時計を見やれば、丁度3限が終わろうとしていた。小さく舌打ちを噛まして踵を返す。憎たらしい程に快晴の水曜日、気分は限りなくブルーだった。




水入らずなんて要らない
(何もかもが不毛だ、そう思うのにこの苛立ちは何なのだろう)





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