ゲームをしよう。奴はそう言った。ルールは簡単、俺から手を出さない事。それだけだ。奴にどんなメリットがあるのか今更考えたところで切りがない。言ってしまえば気紛れ以外の何でもないのだ、きっと明日には何もなかった顔をしてまた当て付けのように他の男に手を出す。愚かとしか言いようがない。独り舞台に酔いしれている男と、そう分かっていながら干渉しようと必死になる男。交わる道理もないのに。
 ベッドに躯を沈められ、顔に息が掛かる程に距離を縮められた。鼻腔を擽る甘い馨りに思わず喉が鳴る。この眼鏡を外したら、少しは考えが読み取れたりして。下らない夢想に耽りながら、シャツを開けていく長細い指を見ていた。次いで胸板に這わされる手は酷く冷たく、俺を使って暖まりたいだけにも思えた。表情を一瞥すれば心なしか口端が上がっているようにも思う。嗚呼、楽しいんだろうな。こうして自分で自分を制約する事が。
 戯れるように乳首の周りを這う指に息を凝らすと、ふっと鼻で笑われた。気持ち良い、擽ったいと言うよりは、単にお前がそうしている事に見惚れているなんて気付く筈もないのだろう。

「…何か言いたげだな」
「いや…別に、」
「何だ、歯切れが悪いな。お前らしくもない」

 俺らしい、って何だよ。あんたは俺の何を知ってるって言うんだ。眉を顰めてあからさまに不快感を押し出せば、宥めるように胸元に唇が押し付けられ、小さくリップ音を立てて乳首に吸い付かれた。時折舌を覗かせこちらを見据えながら愛撫する姿は店の女を思わせたが、薄ら重なったそれが払拭する程の衝撃が頭を痛くさせる。紛れもない恍惚だった。
 この男を鳴かせたい。その躯に触れて、声を聴きたい。しかしそれは全て奴に仕組まれているのだ。平行線からどうにか交わろうと足掻く無様な姿も、葛藤に咽びながらも求めてしまう憐れな姿も、それ故に手を出してしまう愚かな姿も。
 自棄にゆっくりした所作に思えた。髪へ向かった手は次いで頬へ、耳へ差し伸べられる。情けのつもりなのだろうか、ベルナルドは振り払う事はせず溜め息混じりに苦笑して。

「もうギブアップか、ルキーノ」
「…流石に処女は捧げたくないからな」
「ハハ、違いない」

 他愛ないやり取りの後、呆気なく離れていく躯。知っているんだ、それは万が一にも有り得ない。その男は少しの興奮も見せていないのだから。(それでも俺は尚、始まってもいないゲームに賭けるしかない)




120211
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