何が一番この感情を言語化するに相応しいだろうか、嘲るでも罵るでもなく、苛々するまでにも至らない。楽しい道理もない。嗚呼そうだ、面倒臭い、だ。
 それじゃあ面倒臭いこの男とこうして関係を持っている俺はマゾなのだろうか。冷えた頭で考える。否、これもただの暇潰しだ。少し突いただけで簡単に引っ掛かるものだから、どの程度遊んでくれるのか試しているだけだ。俺の心はジャンのもの、俺の躯は俺のもの、お前の所有出来るものなどありはしない。強いて言うなら、少しの時間を半ば一方的に分け与えているだけだ。(共有などと履き違えているこの男が残念で仕方がない)

 命令してもいないのに目の前に跪く体格の良い男。何の感情を覚える訳でもなく、こうしたら喜ぶのだろうか、なんて無意味綴りをひたすらになぞりながら髪へと指を這わせる。ゆるりと上げられる視線。嗚呼止めてくれ、そんな上目遣いが許されるのはジャンだけなのに。
 はあ、とあからさまな溜め息を漏らしたところで、聞こえてはいないらしい。この男の方が余程マゾに思えてきた。完全な一方通行だと分かっていながら、何が楽しいのだろう。こんな貧相な躯を見て、何処に興奮を覚えるのだろう。投げ出した足をさも大事なものでも扱うようにそっと掬い上げて顔を伏せ甲へと唇を落とす。忠誠のつもりなのだろう、しかしそのまま指まで舐められたら堪ったものではないなと思った。
 言葉を発する事もなくそれはそれは愛しげに口付けるそいつをただ眺めていれば、再び目が合った。先へ進む許しを請うている視線。まるでお預けを食らった犬のようで、今ならそのネクタイが首輪に見える。はは、我ながら傑作だ。

「…今日はここまで、な」

 乾いた唇が震えて掠れた音になる。その時の奴の顔と言ったら。中々飽きさせない術を身に付けているじゃあないか。お陰で空気も読まず指差してしまいそうだったよ。




120115
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