「おい、テメーはいつになったら消えてくれんの?」
「え?普通はここ空気よんで邪魔者がいなくなるよね?なにお前KYってやつ?」
「人んち家に勝手に上がり込みやがって…さっさと帰れ」
「いや、俺は別にお前んちに来たつもりじゃなく理恵の家に来た訳。あくまでお前は理恵の兄貴ってだけで帰れって言われても困る。俺はまだ理恵と一緒に居たい訳だし、これからイチャイチャするの!だからお兄さん、ここは空気をよんで部屋から出ていって下さいお願いします」
「お兄さんなんて呼ぶな!!それに何がイチャイチャだ死ねまじで理恵に触んな汚れる。これ以上近付くな。さっさと別れろじゃないと殺す」
「わー、一気に死ねだの殺すだの危ない単語のオンパレード。これって脅迫だよね?」
「脅迫じゃない命令だ」
「ほんと、ここまでくるといっそ清々しいわ。清々しいくらいのシスコンに加えこの俺様っぷり。なんでこんな奴がモテんのか謎すぎる」
どうしてなんだろう。この2人が顔を合わすとすぐにこれ。私が止めに入らないといつまでも続く言い争い。部屋の空気も心なしか冷たくなって、苦笑いしかこぼれなくなる。
「俺がモテるからって僻みか?」
「っちげーよ!!僻みじゃねぇ!!俺には理恵がいるからいいんです」
「…まじでいっぺん死んでくんね?」
ぎゅっと肩を掴まれ奏多との距離が縮まった。触れるこの距離と、なんでもないように言った一言に私の熱が一気に上がる。
「奏多…恥ずかしいよ」
私から離れようとする前に、伸びてきた理久の手によって私たちの間にはまた距離ができた。鋭く睨み付ける理久とそれに対して睨み返す奏多の間にはまるでバチバチと火花が散るよう。
「大体、お前は…」
「ーっストップ!!」
奏多が何かを言い出すよりも先に私が言葉を重ねて、待ったをかけた。これじゃキリがない。売り言葉に買い言葉。いつまでたっても言い合いが続いてしまう。
「ね、もういいでしょ?今日はここまでで。理久も汚い言葉ばっか使ってダメだよ!」
「俺は理恵が心配で心配でたまんねーの!脅されて仕方なく付き合ってやってるとかじゃねーの?」
真剣な顔で何をアホみたいなことを言い出すのか。双子のお兄ちゃんである理久は妹目線からでも、そうじゃなくてもかっこよくて人気者。ずっと一緒にいた片割れは成長するにつれて、ドがつくほどの心配性になった。よく周りからはなんで、そんなに仲がいいの?って聞かれるくらい私と理久は仲が良い。2人で買い物に行くとカップルに間違えられるのはもう慣れっこだ。
「違うよ!仕方なくじゃないから」
正真正銘、私の彼氏である奏多をよく思っていない理久はこうやって疑いの眼差しを向けてくる。ちゃんと好きだから付き合っているし、喧嘩だってしたことがない。今まで順調にやってこれている。のに、理久が快く思わないばかりに家に連れてきたことだって今日をいれて数回だけ。学校でだって奏多と2人でいる場面を理久に見られたりでもしたら、ここぞとばかりに邪魔をされる。そしてお決まりの2人の言い争いが始まる。
そういえばいつも何かにつけて理久の邪魔が入っているんだよな。今まで私がフラれてきた理由の中にも"理久が"っていう単語をつけてフラれることが何度もあった。だからって理久を嫌いになったりしないし、それほど私のことが好きだったんじゃなかったんだって冷静になって客観視してしまう。その時点で私もそこまで本気で恋愛をしていなかったのかもしれない。もう過ぎた話。今は奏多に本気で恋愛中。
「お兄さん!妹さんは僕が大事に大切にします。なので心配は微塵もいりません」
「だからお兄さんっていうなっつってんだろ!!」
「…はぁ。お前もさぁ、俺らの邪魔してる暇があるなら彼女つくればいいだろ?なんで告られてもフるかなー。どんだけ理想高いの?ちょっとタイプな子教えてみなさい。俺が可愛い子探して紹介してやるから」
「……理恵以上に可愛い女を紹介してくれるって言うなら考える」
「ちょっとそれはないわ」
「だろ?つーか紹介なんていらない。そこまで女に飢えてないし困ってない」
「あっはははー。ほんと腹立つ」
「それはお互い様だな」
笑っているようで全く笑えていませんよ、2人とも。今していた会話に私は何もつっこみませんからね。
「はぁー、さっさと妹離れしてくれよ。じゃないと俺が困る」
「そんな日来る訳ないだろ。言っておくけどな、理恵はお前なんかより俺と一緒にいる時間のほうが百倍長い」
「それは兄妹だからな」
「俺のほうが理恵を知ってる」
「…家族だからな」
「理恵はお前より俺のほうが百倍好きなんだよ」
「おいちょっと待て。それは聞き捨てならねーぞ」
勝ち誇ったように言い切る理久に奏多は眉をひそめた。確かに理久が言ってることは間違いじゃない。家族だから過ごしてきた時間は奏多よりも遥かに多いし、お互いを知り尽くしている。けれど、私は奏多ともそうなりたいと思う。"好き"だって計れないよ。
そしてまた険悪ムードになる2人の間にいる私のこの居心地の悪さはどうにかならないのかな。嫌だなー。
「2人とも大好き、なのに喧嘩ばっかして悲しいよ」
俯きながら本音を小さく零すといきなり黙り込む2人。え、なんで?私何か変なこと言った?すぐに顔を上げてみる。2つの溜め息がゆっくり吐かれた。
「「今のは反則だろ」」
同時に揃う言葉。なんだ、意外と気が合うんじゃない。なんて、言ったらきっとすぐにまた否定をして争いが始まるだろうから飲み込んで。今すぐにとまでは無理強いをしないけど仲良くなってくれたらいいのにな。ひっそりと願いを込めて笑ってみせる。私の気持ちなんてお見通しかのように眉は下がって口角は上がってるちぐはぐな表情の奏多に軽く頭をこつかれた。
「っ…お前!!今、理恵の頭殴りやがったな!!」
「はぁ?クソ兄貴がいちいち大袈裟なんだよ!!」
でかい声を出さないで下さい2人とも。頭にがんがん響きます。そう怒りたい気持ちはほんの少しだけ。こそばゆくて、うまく言葉にできない優しい感情が広がっていく。
2人のうちどちらか1人を選べと言われても絶対選べないし、選びたくない。欲張りだと言われてもいいんです。私の大切な人たちはそれだけ素敵なのです。
milky way
(どちらの手も離せないよ。)
◇男の子と女の子の双子
◇お兄ちゃんは格好良くて人気者だけどシスコン
◇妹ちゃんは女の子らしくてふわふわ気弱
◇双子の妹の恋路を邪魔するお兄ちゃんと彼氏で妹ちゃんの取り合い
◇兄→理久 妹→理恵 彼氏→奏多
という大変詳しいリクエストをありがとうございました!!かなりお待たせしてすみません。待たせた割にこのクオリティorz残念すぎて言葉になんねぇ…ですが楽しみながら書かせていただきました!期待に少しでも沿えていれば嬉しいです\(^o^)/
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