ウィリアム・モリス伝(ヘンダースン著)
ウィリアム・モリス(スタンスキー著)
William Morris 1834-1896は19世紀英国のデザイナーにして社会主義者。当時の粗悪な大量生産品を嫌い、中世ヨーロッパに憧れて手工芸品製造業を興し、素材に沿うことや手仕事の大切さを唱える美術工芸運動を指導しました。
ヘンダースンの伝記は縦2段組600ページほど、図版94点殆ど白黒。
スタンスキーは横書き120ページほどで図版なし。
ともに索引つき。用語解説も親切です。
19世紀中葉の英国では、産業革命後の公害と粗悪な量産品、自由放任政策がもたらした劣悪な労働環境がはびこり、芸術家らは機械文明が人間性を奪うと批判して自然回帰運動を興し、彼はデザイナーとなりました。
当時、公害や貧民街を生み出したのは機械文明(工業)、と考えられていたわけですが、原因は資本主義経済体制にこそある、とマルクスが「資本論」で指摘、それに感化されて彼は社会主義者にもなります。
後者の面において革新派に見えますが、産業革命(と資本主義)そのものが革新かつ自然を脅かしていたのでモリスの立場は寧ろ保守と言えます。実際、古建築保存協会を組織し失われた染織法を復活させてもいます。
また我々が知る現在の資本主義──8時間労働制や失業保険や有給休暇や退職金などの社会主義的施策や環境保護基準によって飼い馴らされた資本主義、と当時の「剥き出しの」資本主義が異なる点にも留意しなければなりません。
その産業革命と資本主義が、保守層である筈の上流階級に受け容れられたのは、富を集め殖やすためと考えられます。
富の前には文化・伝統・自然は無価値なんですね。ただ富は権威を欲し、伝統的権威ならば富に庇護されます。
そしてモリスが好んだのは英国の伝統的な風景と自然でした。
彼自身は反体制的でしたが、母国の自然を重んじるその作品群は上流階級に好かれ、英国を代表するデザイナーとなります。
アマゾンレビュワーが指摘するように彼は矛盾を抱え、その政治思想についても、あくまで貨幣経済に立脚したマルクスと違い、モリスの社会主義は過去へ回帰し中世的村落共同体を夢見るもので、エンゲルスはそのユートピア思想に呆れました。
ちなみに彼は晩年も社会主義運動に携わっていたとヘンダースンは書いています。
ともあれその作品の評価は高く、モリス商会の壁紙は現在も印刷されています。
モリスらの美術工芸運動(デザイン改善運動)が欧州大陸へ伝わると、その意志に反して機械文明と和合し量産品を洗練させていきます。
ずいぶん回りくどくなりましたが、それがモダンデザインでした。
同社の鉛筆トワゾンドール1900と同配色の2mm芯ホルダで
5201/5216の色違い。基本的にはあれと同じもの。チェコ製?
TOISON D'ORとは金の羊毛を意味し、そのような書き味を目指したと思われます。
鉛筆のような六角軸は、そうは見えませんが内部含めてフルメタル。軸材はアルミに思いますが、もしかしたら洋白かもしれません。
クリップつき。クリップなしも存在します。
簡易芯研器つき。適合芯研器
ステッドラー502、
ロットリングR505 250N(緑色差込口)、ダーレ301等。
金文字が映える黒軸はつややかで一部が象牙色。
鉛筆1900の象牙色の帯には芯硬度表示があります。
芯ホルダ5900は芯交換で硬度が変わるため、無地になって間延びしているのがちょっと残念。
見てくれがシャーペンとも鉛筆ともつかない芯ホルダにしては、本品は
カランダッシュと同じく鉛筆に近い印象があります。
ヨーロッパ雑貨を好むひとには、高級品など持ちたいとは思わないけれどありふれたものもイヤ、というひとが多いと思うんですけど、そんな人々にこの東欧製品はよろしいんじゃないでしょうか。
本品は2mm芯ホルダですけどね。