目を開けると、そこには恋い焦がれる人がいた。
彼の繊細な手が髪へ伸び優しく私の髪を撫でる。髪から伝わる温もりがなんとも心地良い。
その行為にうっとりと目を細めれば、彼は啄むようなキスの雨を降らした。
そのキスに応えようと腕を伸ばす。
アルコールを飲んだように気分は高揚し、頭はくらくらする。
「先生、好き…」
口を尖んがらせ、もっととあからさまにキスをねだる。
それに答えるように、彼は深く野生的なキスを施す。
私の心はそれに歓喜し、身体を思わず震える。
いつの間にかに、彼は私の首筋を舐め上げ、耳下で、深く甘い声で囁く。
「名前愛している」
私は嬉しくて、哀しくて、思わず涙が溢れた。
「何故、泣く」
そう言いながら、大きく安らぎを与えてくれる手で流れる涙を拭う。
それにまた涙が溢れ目を閉じた。
余りの眩しさ思わずうっすら目を開けると力強い光が窓辺から差し込んでいた。
だが、視界は涙の所為でぼやけておりあまりよく見えない。
頭は、先程のキスの所為かくらくらする。
だがそれはすぐに錯覚だと気づき、頭がくらくらするのは昨夜、ポートワインを2本も空けた所為だと、どこか冷静な自分は分析する。
夢を思い出すように唇をなぞれば、あの濃厚なキスやあの人の温もりが蘇ってくる。
「先生…」
耐え切れなくなり思わず呟けば、胸は悲鳴を上げ余計に切なさが込み上げる。
その切なさは凶器じみており苦しくて息が出来ない。
もう狂いそうだ。
涙はとめどなく溢れ、枕を濡らす。嗚咽のような泣き声。
泣いても泣いても、この苦しみは取れず、寧ろ苦しさは高まり続ける。
どれくらい泣いただろう。
徐々に冷静さが戻りつつあるなか、ふと思う。
昨日は七夕だ。あの人を忘れようと毎日忙しく、努めて笑顔にいようとした所為ですっかり忘れていた。
天の川に引き裂かれた織り姫と彦星が一年に一度だけ会える日であるように、私たちも天の川ではないけれど三途の川によって引き裂かれ一年に一度夢に現れる。
あの人は彼岸に、私は此岸にいる。川を乗り越えて会うことは生者の私には出来ない。
「セブルス」
会いたい、触れたい、封じこめた筈の思いが、溢れだす。
そう、願わずにはいられない、私も星になりたいと。