つかの間の太陽につられ、オープンカフェでランチを取っているときだった。

「ねえ、あの人、ずっとこっち見てない。」

不意に友人兼同僚は言ってきた。私は訳がわからないと言った風に、首をかしげる。

「うん?どこ」

「もう。とぼけないで。絶対ストーカーよ。あれ」

「え、ちょっとあなた、ストーカーに狙われてるの?」

それは、由々しき事態である。大切な友達が女の敵に狙われるなんて。私が付いていながら、なんたる不覚である。そうと解ると、職業柄、一気に頭の中に、ストーカー規制法やら、対策マニュアルが溢れ、昼休みだというのに仕事モードになる。また、個人的に呪ってやろうかとイケナイ感情まで募ってくる。

「で、ストーカーにつきまとわれてるのは、いつぐらい?あと、無言電話とか嫌がらせはある?」

「ちょ、名前、ストーカーの狙いは私でなく、あなたよ」

「え、私?」

それこそ、みに覚えがなく、虚を突かれたように、キョトンとしてしまった。
私にストーカーする人間がいるとも思えない。なにせ、私は魔女と男性達に恐れられている。まあ、確かに私はホグワーツ魔法魔術学校を卒業した歴とした魔女であるから、あながち間違いでもない。

私が魔女と男性陣から言われる理由は、私に好意を寄せると、呪われるらしい。

本当に、呪われるわけではないし、私は呪っているわけでもない。ただ、私に好意を寄せると不運が続いたり、身の危険を感じるようになるらしい。そんなことが一人や二人ではなく、結構いるらしく、大袈裟に、そんなことを言っている。
それに男性陣の魔女というのも、不吉な女程度のニュアンスだろう。

私が本気を出して一時期暇潰しに読んだ闇の魔術を駆使して呪えば、不運どころではすまされない。

「絶対、名前、あなたが狙いよ。よく、名前の周りで見掛けるもの。ほらあそこ」

友人の視線を向けた方向を見ると、少し先の狭く日の当たらない鬱蒼とした路地に、全身を闇色に包んだ人物がいた。だが、人相まで解る距離ではなく、顔は不健康そうな色白さがぼんやりとやけに不気味に目立つ。髪から、衣服まで全身、闇のような黒さなのに、顔だけ日に当たったことのないように白いから、浮き出て、不気味さに拍車をかけている。

「ああ、彼は良いの」

むしろ、友人が気づいたことに、気づくはずもないと思っていたから吃驚だった。

彼が、セブルス・スネイプが、ストーカー規制法で言う「つきまとい」をしていることに、気付いていない訳がなかった。

愛している人の視線に気づかない訳がない。
いつも彼は優しく愛おしそうに私のことを見てくれたし、見守っていた。
だから、最初に誰かに見られていると感じたとき、昔と寸分変わらないその視線に、すぐにセブルスだと解った。

そして今も、変わらず私を見守っている。

「彼がストーカーなら、私公認のストーカーよ。」

私は笑いながら言った。
どうぞ、気の済むまでおやりなさい。それが、貴方のちょっと変わった愛情表現、というよりも、未練なのだから。

今度は、友人が虚を突かれたらしい。「ちょっと」っとなにか言いたげに口を動かしている。私はそれを、笑いながら見ていた。

「彼は、心配でしょうがないのよ。私のことになると、ちょっとのことでも気が気じゃないの。昔からというより付き合う前から、超過保護だったもの。だから、つきまといぐらいさせとこうと思って、好きにやらせておいた方がそのうち飽きるでしょ。私には実害ないし。」

あっけらかんと言うわりに、内心は、複雑だった。
本当は、本来の場所に早く戻って欲しい。ここにいては、だめ。
ここは、貴方のいる場所ではないの。

そんな、ことは初めから解っていて。だから、貴方の変わらない視線を感じたとき、何故、どうしてと思わずにはいられなかった。

だって彼は、そこにいないはずだから。


あなたを心配させている私が悪いのは解っている。
そして、例え触れることが、声を交わすことがなくても、あなたがいればいいと思ってしまう私は、おかしいのかもしれない。
貴方の視線が心強いとか、安心するとか、思ってしまう。

安らかな眠りを与えなくては、いけないのに、ここにいてと願っている私があなたをここに留め置いているのかもしれない。

悪い女ね。
ごめんなさい。


だってあなたは……














もう、死んでいるのだから。




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お題:確かに恋だった




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