まるで雪の上に季節外れの紅い薔薇が敷き詰められたようだった。血の赤と雪の白さが異様で幻想的なコントラストを産み出している。その中心に彼はいた。
そんな姿の彼を見れば、先生!!、と私は、金切り声をあげ、どうしたらいいかなんて解らないただ駆け寄った。
服が、血で汚れるとか、そんなの構ってられず、血の海に膝を着き、そっと彼の顔に触れる。
指先から人との温もりなど雪に吸い取られてしまったかのように、冷さが伝わってきた。
「先生、起きて」
そう言いながら冷たい頬を叩く。そんなことしたところで固く閉ざされた瞳が開くことなどないと解っているのに、そうせずにはいられなかった。
「先生、スネイプ先生、嫌だよ。独りにしないで」
徐々に受け入れ始めた事実に比例するかのように、胸が締め付けられ、苦しくなる。
ぽつり、ぽつりと先生の頬に、涙雨が降る。
「お願い、目を開けて……」
縋りながら訴えても、先生は相も変わらず開けることはなかった。心が張り裂けそうな先生の無言の答えに、私は嫌だと駄々をこねるようにただ泣くしかできなかった。
目を開ければ、視界は酷くぼやけ、反射的に目を擦った。泣いていたのだ、と頭の角で理解し、頬に触れれば涙の後が確かにある。ただ、何故、泣いていたのかは、少しばかりあやふやで、脳裏にあるのは、紅と蒼白になった男性の顔、いやあれはもっとみじかな人だったような、その上、それをいつ見たのか夢なのか現実なのかさえもままならない。
そして、心にはどこかぽっかり穴が空いたようで、その隙間に恐怖にも似た不安が襲った。
むくりと起き上がり、辺りを見渡せば、真っ暗で誰もいない。でも確かに、ベッドには温もりと残り香があった。
「先生、どこ?」
無意識に、そう呟くも、誰も答えてはくれない。それに、ますます不安が募る。
慎重にベッドから下り、外気に身体が曝されて、ぶるっと身震いし、自分が裸であることに気付いた。
何か羽織るものを、と考え手探りで探すも、こうも真っ暗では何も解らず、仕方なく裸で、部屋を出た。
暗い廊下に出れば何処からか、シャワーの音がする。
その音を頼りに、途中、物に足を取られながらも、シャワー室を目指した。
シャワー室の曇りガラスに、人影が浮かんでいることに安堵し、そっとドアを開けた。
目の前のがっちりした大きな背中に、先生、とこどもが大人に縋るように抱き着いた。
「先生?懐かしいな、名前にそう呼ばれるのも。」
先生と呼ばれたことに驚いたようだったが、声はどこか、遠い過去を懐かしむようだった。私は彼を先生と呼ぶ以外、他にあっただろうかと記憶を探るも、何故か、思考が霞んで上手く記憶を手繰れない。思いだそうとすると、先程見た血の海と蒼白の顔が脳裏に浮かぶ。そして怖くなり、ぎゅっと先生に回す腕を強くする。すると、あやすように大きな手が私の髪を撫でた。
「怖い夢でも見たのか」
ああ、あれは夢だったのか。
そう思っても、不安は消えず蔓延る。実は、この温もりさえも夢の見せるまやかしにすぎず、今もなお夢に囚われているのではと考えてしまう。
不安を拭い去るように、先生の首に腕を回し、そっと自らの唇を重ねた。
薄い唇から伝わる温もりが、血が通っている生きた人であることを感じ、少しばかり安堵する。
「随分、積極的だな。」
意地悪そうに笑いながら言うも、嬉しそうだった。
触れるだけではなく、今度は深く、唇を重ね、お互いの舌と舌を絡み合わせる。
その行為に脳が徐々に、痺れ、不安が薄らいでいった。
身体がじんと熱くなり、絡めるしたも激しさを増す。お互いが貪欲にお互いを貪り、快楽を享受する。すると優しく胸の膨らみを揉まれ、甘い吐息とともに、あ、っと声を漏らした。
口づけだけで固くなった胸の頂きを、摘み、弄られる。
センセイ、求めるように、呼んだ。
もっと、この胸に漂う不安を消すぐらいに、激しくして。
先生の瞳に写る私は、きっと、酷くいやらしいに違いない。シャワーの温かさと、中から沸き上がる熱で、顔は朱く蒸気し、瞳は、気持ちよさ気にとろんと蕩けているのであろう。
「そう呼ばれると、なにやら、背徳の匂いがしますな、Ms.苗字。」
そう吐息ともに艶やかに耳元呟きながら、痛いくらいに主張する胸の飾りを強く弄られれば、自分でもわかるほどじゅるりと蜜が溢れ出した。
「名前」
名を呼ばれれば、後ろを向き、お尻を突き出した。
蜜壷に熱い鞘が宛がわれ、狭い中を広げるように突き進む。それだけで、あああ、と鼻から抜けるような声を漏らし、背をのけ反らせた。
中におさまると、始めはゆっくりだったが、徐々に激しさを増し、打ち付けるように、鞘が蜜壷を出入りする。
鞘と肉壁がすれる度、脳が擦れるような快楽が沸き起こる。
嬌声を上げながらも、何度も、先生、と呼ぶ。
霞み行く頭で、もしかしたら私は、あの雪の中で、夢を見ているのかもしれないし、先生の言う通り、あの出来事は夢なのかもしれない。
どちらが現実なのか、確かなことはなにもなかった。
「もっと、もっと、突いて」
私は、懇願する。
この温もりや、快感が現実であるという確かなのもであるようにと思わずにいられない。不安を快楽という色で塗り潰す。
懇願に答えるかのように、一層強く打ち付けられる。思考出来ない程の、快感が頭を駆け抜け、甲高く啼き私は気をやった。
どちらが現実で夢であろうと、あなたがいる世界が私の現実であってほしい。次に目を醒ますとき、貴方の腕の中であることを願わずにいられないのである。