その頃は、好きだなんて言えなかった。
私みたいな、日本人で、マグル出身の魔女が、彼に好きなんて言えるわけがない。
それに彼は、幼馴染の少女のことが好きだった。私なんて眼中に無いって知ってから。
私はスリザリンのくせに、マグル出身で、寮違いといつも罵倒されていた。
何も言い返すことが出来なく、私もそう思った。だから、その言葉を甘受した。
『あんた、すこし言い返したらどうなのよ!』
3階の女子トイレの住人歎きのマートルが私に一喝する。
私の友達と言える存在は、幽霊である彼女しかいなかった。
「だって、事実だから言い返すのもって思っちゃって」
苦笑いした。マートルは、私には結構ずばずばものを言うのである。今日も、マヌケだの、汚れた血が、とか言われた。5年以上言われもすれば正直慣れっこである。言われたとてもう何にも感じない
ただ、英国人の純血主義が此処までとは思いもよらなかったのは事実だ。
いったい彼らはいつ私をいじめることに飽きるのか、よくも飽きずにやっている。イギリス人は、執着深いのだろうか。
「でも、本とか投げられるのはいやかな。痛いし。」
今日もやられ、逃げる途中で派手に転んでしまった。膝には擦りむいた後があり、ああ、ヒリヒリして痛い。
「ほら」
視界にヒラヒラと泳ぐバンソコがある。顔を上げるとそこには、スネイプくんがいた。
「要らないのか」
「うんうん。ありがとう。」
そう言って、バンソコを受け取った。
顔が熱いのはほっとくことにする。
『セブルス・スネイプ!!あんた、ちゃんと名前を守りなさいよ。女の子に怪我させるなんて英国紳士の名が折れるじゃない』
マートルがまた、一喝する。
思わず私は思わず笑ってしまった。
スネイプくんは同い年で、私が留学生ということで寮監の計らいで付けてくれた世話係のようなものだ。
「僕は悪くない。名前もなにか言い換えせ。英語が解らないから言い換えせないとあいつらは思っているぞ。」
そう言うなり、私の隣に腰を下ろす。そして、小さく「全く」なんて言うもんだから、私は、小さくなり毎度のことながら「うう、ごめんなさい」と、蚊のなく声で言った。
「そうじゃない。僕が、しょっちゅう傍にいて守ることなんて出来ない。けれど、いるときぐらいは思ったんだが……」
出来なかった。っと小さいく零すと、ぽんぽんと私の頭を優しく叩く。スネイプくんの顔は優しかった。
今日は、最後の魔法薬学の授業は一緒だったのだが、スネイプくんが先生の所に質問に言っていると間、外で待っていたら、同寮の生徒にいじめれ、此処まで逃げてきたのだ。
「大丈夫だよ。スネイプくんって優しいよね。」
「そ、そんなんじゃない!!!!」
思わず言ってしまった言葉にスネイプくんは真っ赤になって全力で否定した。
ふふ、可愛いなーなんて思うも、口に出したら愛想を尽かしてどこかへ行ってしまいそうだ。いつも、真面目で厳しい人だが、こういった可愛いところが無性に好きなのである。所謂、ギャップ萌えってヤツだろうか。
「ねえねえ、スネイプくん。今日の薬学教えて。あまり良く解らなかった。」
「はあ、名前。どこだ。」
呆れて、溜息を着いていかにもやりたくない、めんどくさい、なんてスタンスを取るけれど、彼は、いつも丁寧に教えてくれる。きっと、教師に向いていると私は密かに思っていた。面倒見の良いところもある。
西日の差し込む3階の女子トイレで今日の復習をするなんて、ちょっと可笑しなシチュエーションだけれども、私にとっては何よりも、大好きな時間だった。
苛められた記憶もたくさんあるけど、セブルスと過ごした時間が、学校生活で過ごした中で幸せな時だった。そう、あなたがいるだけで私は幸せだった。好きなんていえなかったけれども。
「セブルス、好きよ」
ホグワーツ卒業後、日本へ帰るためにヒースロー空港にいた。
本当は、ロンドン大学に進学する予定だったのだが、マグル出身の私は魔法界の情勢不安定化から、急遽、日本の大学に進学する事にした。
私は、見送りに来てくれたセブルスに別れ際、そう口にする。人間なんてあっという間に死んでしまう。この戦いで彼が死ぬなんて考えたくは無いが、言わなければ後悔すると思った。
すると、セブルスは真っ赤になって「なぜ、もっと早く言わないんだ!」って憤った。
そんな理不尽すぎる。
「ご、ごめんなさい」
いつものように、小さく鳴き、俯いた。
すると、目の前が真っ暗になって、温かい何かに包まれた。セブルスに、抱きしめられた、と気づくのに幾分かかり、認識してしてしまえば、見る見るうちに顔から湯気が出そうである。
「名前、僕のこと忘れるなよ。絶対に迎いに行く」
私は、何分、想定外の出来事に適応できず、ただ、うんとしかいえなかった。