どうにかなってしまいそうな暑さに軽く眩暈を覚える。

「暑い!」

そう言いながら幾分か冷たそうな座卓に突っ伏す。

「五月蝿いよ、セブルス」

もうお決まりのような台詞を反射のような速度で一つ上の恋人名前は言う。

此処、日本に来て随分と繰替えされたやり取りだ。


暑さに弱い英国人にとってこの日本の暑さは、もう地獄に等しく救いようがない。

照り付ける太陽、生温い風、滲み出る汗、もう何もかも不快でしかない。

何故こんな僕が日本にいるかといえば、名前に連れて来られたのだ。

事の発端は、ロンドンに向かうホグワーツ特急の中だった。

「都会の喧騒を離れ、一緒に田舎にでも行かないかい?」

流れ風景を見ていた名前がぽつりと言った。

僕は、『椿姫』の様な台詞に驚いて、うまく返事が出来ない。ただ、その眉目秀麗な横顔を食い入る様に、その真意を推し量るかの様に見つめた。

相変わらず顔は窓の方を向いているが、僕の視線に気づいたのか、返答しない僕を怪訝に思ったのか、彼女の不敵そうな視線と在った。

行かないとは言わせんと言わんばかりの視線に僕はたじろうほかに何をしたらいいか解らなかった。

「行かないという選択肢はないよ。セブルス」

強引で嗷岸な彼女に僕は行かないとは言えなかったし、まさか田舎というのが日本だとは思いもよらなかった。

そう言う訳で僕は日本にきた。

確かに彼女の言う通り、此処は田舎だった。
首都からだいたい30キロ弱行ったところにあるその街は、まだ都内のような開発されていない、古きよき時代の日本の田園風景と言った感じのところだった。

連れて来られた家も平屋の日本家屋で、裏手は森と神社というところだった。






名前が僕を連れてきた真意なんて良く解らなかった。

実家に帰りたくなかった僕にとっては、暑いことを抜きにすれば、彼女と夏休み中ずっと一緒にいられることは嬉しかった。

あの吐き溜めのようなあの場所で、何かに怯える様に戦々恐々と過ごすのは嫌だった。

彼女はそんな僕の心を知っている。それで彼女に迷惑を掛けているのではと不安にもなる。なにせ此処まで来る旅費なんかは全て彼女持ちだ。

男としてどこか不甲斐ない。

「なんで名前は、」

そこまで言って思わず口ごもる。頬に当たるひやりとしていた感触は今や熱を取り込みどこか生温い。

「セブルスは、どうでもいい所でうじうじ悩むな」

少し困った様に彼女は言う。

「なっ」

少し馬鹿にされた様で腹が立ち、思わず身体を起こす。
目の前に座る彼女は、座卓に肘をついて、笑っていた。

「良いんだよ。私が連れて行きたいと思ったから連れてきたのだから。そのことで気を負う必要はないんだよ。ただ、君に知って欲しかったのさ。私が育った所を。全ては私の我が儘だよ」

たった一つしか離れていないのに彼女は大人だ。魔法で見透かしているわけではないのに、意図も簡単に僕の心を読み取ってしまう。いくら僕が心を閉ざしても彼女にはお見通しだった。何時もは、冗談ばかりいい、純粋無垢な子供の様に僕を困らしているのに、こう言う時に思い知らされてしまう。彼女は大人何だと。

「楽しもうよ、セブルス。きっと平和な時なんて今しかないんだからさ。ほら眉間に皺寄せない」

身を乗り出して彼女は僕の眉間に人差し指でぐりぐり押す。

「痛い」

「ふふふふ、痛いか。何時も眉間に皺を寄せる君に罰ゲームだ」

「じゃあ、何時も僕をからかう名前にも罰ゲームだ」

眉間をぐりぐりする腕を掴み、僕は身を乗り出し彼女の笑う紅い唇を塞いだ。

唇を離せば、「セブルスにしてやられた」と少し悔しいそうに名前は呟く。

「お返しだよ」

そう次の瞬間何時もの不敵な笑みに切り替わり、噛み付く様な獰猛で野生的なキスをされた。

嬲るように、手玉に取られ、彼女が唇を離せば銀糸の糸が結ぶ。

「セブルス、おにぎり持って涼みに行こうか」

何事もなかったようにすくっと立ち上がり、彼女は台所の方に向かっていった。
あからさまに熱い頬を冷やすように、また座卓に沈む。

溶けてしまいそうな思考の中で、僕が勝てる日は来るのだろうか等と考えてしまうのだった。

きっと来ない気もするが、それはそれでいいのかもしれな。

「ほら、突っ伏してないで、寝室から蚊取り線香持ってくる」

「何処行くんだ」

起き上がりながら名前に問う。

「裏の森だよ、小川もあるから涼むにはちょうどいいんだ」

そう言う彼女は何処か悪戯っ子のような笑みを僕に向けるのだった。





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