13Q 1
 部活後、空気が緩むと直ぐに、部室は白美の話で盛り上がった。

 果たして、皆は初めて目にした白美のバスケの、洗練された技術や秘められたパワーに驚き、同時に心を動かされたのだ。
 
「橙野、お前やっぱ、マジスゲエのな!」

 小金井に絡まれ、白美は汗ふきタオルを動か手を止めると苦笑する。

「そんなことないですよ」

「んなーに謙遜しちゃってんの!? お前すげえって! なんていうか、達人?」

「確かに試合慣れしてるし、技巧派でパワーもある……、十分スゲエよ」

 小金井に続き、日向が言った。
 しかし、白美はタオルを片づけ、肩を竦めると首を横に振る。

「いや、でも、火神に普通に勝っちゃってたし――」

 そして、口を挟んだ福田に、微笑しながら言い返した。

「……今はね?」

「え?」

 白美は一拍の間を置いて、脇で黙々としている黒子や火神を除いた皆が自分に注目していることを確かめ、目を伏せると口を開く。

「自分は、バスケが大好きで、帝光のバスケ部に入部しました。当時は、あの名門でも、自分ならレギュラーでもとれるかもしれないと甘い事を考えていました。でも、いざ入ってみれば、そこには凡人とは圧倒的に違う……、最早違う次元に生きる天才たちが、よりにもよって同学年にいて。自分は、己の非力さを思い知った。公式戦なんて最早夢のまた夢だと、諦めた時期もあったんです」

「……」

(嘘つきですね)

 全員、不意に張りつめた空気の中で、静かに白美の話を聞く。
 黒子は思う事があったが、それは胸の内に秘めて態度に出さない。
 白美は、ふと顔をあげ、また苦笑する。

「でも、公式戦に出られなかったとしても、せめてベンチには入りたいと思った。それで、更に実力をかわれていれば、公式戦で少しでも使って貰えると思った。だから――、あの天才達に――ライバルになんとか喰らいつけるように、と、毎日必死で練習したんです。その結果、覚醒前の彼等に立ち向かうだけの力は、手に入った。当時の自分と当時の彼等なら、同じ平面にすら立てた。だから例え怪我というハンデがあっても……」

――まだ火神には、負けられない。

 白美は続けた。
 
 それを聞いて、火神はハッと動作をとめ、周りの他の部員たちもまた息を呑んだ。
 
(橙野は、火神や俺らよりずっと前から、キセキの世代に打ち勝とうとしてきた……、と)

(コイツはバスケが勿論好きでやってるんだろうが……、怪我を乗り越えてでもやろうとするのは、キセキの世代という一方的なライバルに、突き放されてそれでもまた、食らいつく為……)
 
――橙野の、信念の強さが、見える。
 
 その言葉自体は偽りだ。
 でも、彼等は皆白美の言葉を信じ、白美の強い芯に心強さを感じ。
 
「そうは言っても、所詮凡人は凡人――そのうち火神には追い抜かされる。それに自分は全力で戦える身じゃない……。ただ、支えたり後押ししたりはできるから。ある意味、自分も影になって光を際立たせられれば、いいかな、って。あいつらには負けたくないから。それで、皆で食らいついて、勝てたら……嬉しいかな」
 
 一同は、息を呑んだ。
 こんなにも、真摯にバスケと向き合っている者はそうそう居た者ではない、と。
 白美の微笑の裏側に秘められた強い思い、こそ、彼の強さを裏打ちするものなのだと、火神を含めて皆が感じた。
 
 
彼の言葉に目を見張ったのは黒子も例外ではなかった。
――「皆で食らいついて、勝てたら嬉しい」。
 
 昔の、白美なら絶対に口にするどころか思いすらしなかっただろう、言葉。
 例えそれが、偽りの仮面が吐いた言葉だったとしても、黒子には白美の本心からのそれに聞こえた。
 

そうして、過去を知る黒子は、また、人知れず微笑むのだった。



(His sincerity posture)

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