06Q 1
 練習試合当日――、火神、黒子をはじめとする誠凛男子バスケ部の1年生は、真新しいジャージに身を包んで――白美は灰色のシャツに白いパンツという軽装だが――先輩に続き海常高校の門をくぐった。
 
 遠くまで続く並木に、長く連なる数々の校舎、ガラス張りの渡り廊下が見える。
 噂には聞いていたが海常、やはり相当の設備だ。

「うわ〜、やっぱ広ぇ〜。運動部に力入れてるとこは違うねぇ〜!」

 誠凛のそれの遥か上を行く充実した施設に、日向は感嘆の声をあげる。
 他の面々も海常のスケールに驚き、興奮の面持ちだ。
 だが、その中に独り、異様に目をギラつかせて歩く者がいた。
――火神大我だ。
 そのあまりの様子を見かね、隣を歩いていた黒子が声をあげた。

「火神くん、何時にも増して悪いです、目付き」

「うるせぇ」

 火神はなんでもねぇと黒子の追求を避けるように顔を背けるが、今度はそちら側にいたまたもや眼鏡装着中の白美にまじまじと凝視される。

「一晩ウ○ーリー探してましたみたいな目だね」

「うっせぇよ……」

 と、言うのもこの火神。
 昨晩、黄瀬との対戦を楽しみにし過ぎたあまり、ベッドに入るも寝るに寝つけず、気が付いたら朝になってしまっていたのだ。
 目付きが悪いのは、別に目を酷使したからではなく、単に寝不足のせいだ。 

「ちょっとテンションあがりすぎてな……」

 火神は、しくった、とばかりに左手で両目の間をぐっとつまむ。

「遠足前の小学生ですか」

「修学旅行中とか」

 隣から飛んできた辛辣なツッコみに火神が、「なっ何を!?」と反応した、その時。
 「あ」と白美が歩みを止めた。

「どーもっスー!」

 聞こえた声と見えた姿に、火神も「黄瀬っ!!」と足を止める。

 オレンジの短パンに黒いタンクトップを着て笑顔で駆けてくるのは、本日の誠凛の対戦相手海常バスケ部の1年、キセキの世代の黄瀬涼太である。

 誠凛バスケ部は、立ち止まって黄瀬が近付くのを待った。

 因みに、白美は一同の目を盗んでそそくさと水戸部の後ろに隠れる。

「広いんでお迎えにあがりました」

「どーも」

 黄瀬は軽くリコと挨拶を済ませ、「黄瀬! おい!!」と向かってくる火神を綺麗にスルーすると、リコの後ろにいる黒子の元へ向かった。

「黒子っち〜、うちにおいでって言ったのにあんなにあっさり振るから、毎晩枕を濡らしてるんスよ〜? も〜」

 腰に当てていない方の腕で目をごしごしとこすって泣き真似をする黄瀬に、日向は「なんなんだあいつ」と半ばイラついた目を向ける。

「オレ女の子にも振られたことないんスよ〜?」

 火神も「さっさと案内しろ!」と黄瀬に言うが、黄瀬はまるで黒子のことしか見ていなかった。
 白美は、その辺りの影で縮こまりながら冷え冷えとした目で黄瀬を見る。
――安定の黄瀬だ、と。
 一方黒子は、何の気なしに「サラッと嫌味言うの止めてもらえますか」と黄瀬を咎めた。
 黄瀬の切れ長の眼が、スウッと細まる。

「だから、黒子っちにあそこまで言わせる君には、ちょっと興味あるんス。キセキの世代なんて呼び名に別にこだわりとかは無いんスけど、あんだけはっきり喧嘩売られちゃあね」

 黄瀬は火神に歩み寄り、その横を通り過ぎながら言った。

「ん……」

 火神は、真剣な目付きで笑う黄瀬の横顔を睨む。
 その場に漂うのは、ピリピリとした只ならぬ緊張感だ。

「俺もそこまで人間できてないんで。悪いけど、本気でブッ潰すッスよ」

「ッハ、おもしれぇ……」

 黄瀬の言葉に、火神はいつもの様に笑顔を浮かべた。
 だが、そのやりとりの中で好戦的な笑顔を浮かべていたのは、火神や黄瀬だけではなかった。 
 白美もまた、黄瀬や火神の言葉、様子を前にして策士の如き微笑みを見せる。

 何より、火神が思っていた通りに面白い男であったことが、白美にとってまたとない「素材」だった。


(あれ、白髪の選手は……?)

(welcoming)

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