03Q 1
「橙野くん、いる?」

 昼休み、1Cの教室で弁当を食べていた白美は、自分の名を呼ぶ女子の声にふと顔を上げた。
 教室の生徒たちがちらちらと注意を払う向こう、教室の前扉の先にはバスケ部監督、相田リコの姿。
 白美は彼女の姿を確認すると、箸を置いて素早く席を立った。

 その場で軽く会釈をしてから、ささっと教室を出る。
 廊下の隅で、白美はリコを見下ろした。

「先輩? おはようございます。メールありがとうございました。わざわざ来ていただいてすみません」

「あら、そんな、畏まって話さなくていいのよ。橙野くんは礼儀正しいのね」

「ありがとうございます」

 穏やかに微笑む白美の印象は、リコからしてみれば既に滅茶苦茶良い。

 リコは彼に明るく笑い返すと、直ぐに本題に切り出した。

「マネージャーの仕事だけど、一応橙野くんには今は一般の仮入部部員と代わらない枠組みの中で、早速今日の部活から働いて貰うことにしたわ。急なことではあるけれど、仕事内容は昨日送ったメールで大丈夫だった?」

「はい。詳しい所まで教えて頂いて、ありがとうございます。参考になりました」

「いーえー、全然いいのよ。私たちこそ、橙野くんみたいな人が入ってくれて有り難い限りよ。それに、練習メニューの組み立てとか、手伝ってくれるってホント?」

 リコに問われて、白美は微笑みながら小さく頷いた。

「はい、自分で良ければ、出来る限り力になりたいと思っています。情報収集や戦略を練ることに関してのある程度のスキルは持っていますし」

「流石元帝光一軍だけのことはあるわね」

「いえ」

 白美は、小さく目を伏せるとリコから一歩身を引いた。
 そこで、リコはふと白美が手首に付けているデジタルの時計を見て、目をぱっちり開いた。

「っと、まずったわ。私行かなきゃ! ――橙野くん、貴方が居れば心強いわ。是非ともチームの為に力を貸して欲しい。じゃあ、時間取らせてごめん!」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 踵を返して去りゆくリコに、白美はまた丁寧に会釈をする。

「じゃあね〜」

 貌を上げたところで、笑顔で手を振ってよこしたリコににっこりと微笑みを送り、白美はまた教室に戻って行った。






「火神みたいな奴がチームに入ってくれて、ほんとに助かったよ」




(My work)

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