23Q 1
 所変わって桐皇学園高校、薄暗い体育館の舞台に1人寝転がっている者がいた。

「あ〜、だりぃ。動きたくねー。つかもう年かなぁ。ガッツでねぇー。パンくいてー……」

 左手の人差し指の先にバスケットボールを回しながら、けだるげな低い声で誰にとなく言う。
 浅黒い肌をした彼は練習着こそ着ていたが、そのまま暫く窓からの光も当たらないそこで、右手を舞台からだらんと垂らしてただ転がっていた。
  
「あ、やっぱここにいたー」
 
 呆れたような高い声がしたのは、その時だった。
 
「あぁ?」
 
 青年がなんだとアゴを上げた。右手で回していたボールが舞台から床へと落ちて、弾む。

「また仮病で試合休んだの?」

 逆さまの体育館に現れたのは、もう、と頬を膨らませた桃色の髪の少女だった。

「どうせ勝つよ、めんどくせー」

 彼は投げやりに答える。

「もぅ……。あと今、テツくんたちも試合してるらしいね」

 長髪の彼女は腰に手をあてて、わくわくした様子でそう言った。

 けれども窓の外の分厚い曇天のように、彼は相変わらず気怠そうに「へぇ〜、あぁ〜」と適当な返事をするだけだ。
 けれどもそんなことにはお構いなしで彼女は続ける。

「ま、でも、テツくんかなぁ。勝つのは。なんたってアタシが惚れた男だしねぇ〜」

 微笑んで、手にしていたソーダ味のアイスにサクッと噛り付いた。

「どーかな。試合終わってみねえとマジわかんねーよ」

 すると予想外の返答があって、彼女はアイスをかじりながら「へ?」と尋ね返す。

「どっちも土壇場に強ぇえからな〜、伊達に全中三連覇してねぇよ、テツも、緑間も」

 彼は舞台の上で寝返りをうつと、再び垂らした腕をぶらぶらさせながら言った。

「……、そういえばね」

 ふと過ぎた沈黙の後、彼女は気持ち低まった声で話しかける。

「あぁ?」

「……、うのちゃん、元気かな」

「さぁな、また誰か騙くらかしてんじゃねー」

「……うん」

 

(For example,his teammates.)

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