19Q 1
 自身の監督に対する、白美の挑みかけるような言葉を聞いて、高尾はまた「橙野 白美」に対する疑心を深めた。

 それと同時に、白美という存在の手ごわさを改めて前にする。

 だが、自身の目に対する対処法を黒子が得ているかどうかなどという事は、実際やってみなければわからないことだ。
 先程の発言が、どういう意図を持ってのものかは定かではないが、今は奴とこの目でやりあう他ない、と。

 高尾は早々にして鷹の目で、自身背後に位置する味方にボールをパスし、得点へとつなげる。

 それを見た伊月は、確信した。

(ハッ、このパス――! やっぱり、コイツも持ってる――! つまり橙野が言ったのは、コレのことか!)

 高尾の目の能力と、何故、高尾が黒子にあてられたのか、白美が何の話をしたのか、ということも。

 その高尾は、今やオフェンスに動く黒子の行く手をバックしながら軽く阻んでいる。

「こうなると思ったんだわ。ま、真ちゃん風に言うなら? 『運命なのだよ』。俺とお前がやり合うのは」

「……」

 やがて移動をやめ、2人は立ち止まって向かい合う。
 なお笑いながら話しかけてくる高尾を、黒子は無表情でじーっと見返している。

「しかしまさか、こんなに早く対決できるとはねぇ。初めて会った時から思ってたんだよ。俺とお前は同じ人種だって。同じ一年だし? パス捌くのが生業の選手としてさぁ。だからねー、アレ、なんつーの? ぶっちゃけ――同族嫌悪?」

 高尾の表情から、スッと笑みが消える。

「お前にもベンチのアイツにも、負けたくねえんだわ。なんか」

 彼の眼は実に鋭く、強い意志を湛えてコート上の世界を捉えていた。

 その様子を、緑間のマークを受けている火神が、半ば混乱という名の苛立ちを以てチラッと見て、緑間を睨んだ。

「どういうつもりだ。高尾がいくら早ええからって、そういう問題じゃねえぞ黒子は」

「黒子の力など百も承知だ。橙野は知っていたようだが、直ぐにわかるのだよ」

 白美が見抜けていて、自分には見えていないものは何だ、と。だが火神は身構えるしかなかった。

 その時は直ぐに訪れた。

 コートを素早く横切る誠凛側のパスを、あろうことか高尾がカットしたのだ。
しかも、高尾の身体の後ろには、今にもパスをいじろうと構えた黒子がいる。
 あっという間に秀徳はパスでボールをゴール近くまで送り、すぐさま2点を追加した。

 高尾は相変わらずの目のまま、軽く口の左端を吊り上げ、黒子に視線を合わせる。

「つか、今までこんな感覚になったことなかったんだけどな。お前が多分、どっか他と違うからじゃね?」

 抑えられた声音ながら、挑みかかるようにかけられた言葉。
 だが、黒子は相変わらずの返しをした。

「すみません、そういうこと言われたの初めてで、困ります」

 抑揚のない声と無表情で、一言。
 これには思わず、高尾も間抜けな表情をした。

「へっ?」

「けど、僕にも似た感覚はちょっとあります」

 それを聞いて、高尾はまた笑う。

「いいねえ、やる気満々じゃあ――」

 けれど、高尾がまばたきをした次の瞬間に、目の前から黒子の姿は消えていた。

「んなっ!? ちょっとまてええい! いきなり姿くらますって、どんだけ礼儀知らずだ御前えええ!」

 高尾は、ワザとらしく驚きの叫びをあげるが、直ぐに「なーんてな」と自ら笑った。
 目の前から消えたところで、自分の眼からは逃れられないのだ、と。



「日向フリー! 行けぇええ! 」

 間もなくベンチからの声援を傍らに、伊月が黒子へとボールを放った。

 黒子は、ミスディレクションを行いながら、ゴール前でフリーの伊月を視界におさめつつ、パスをすべくして手を動かす。
 ボールを掌で押す様に中継した――までは、よかったのだが。

 次の瞬間、「ったあ!」と高尾にボールが叩き落とされてしまった。

「ッ――!」

 目の前で起こった事態に、黒子や日向は目を見開く。
 白美を除いたベンチの面々も、衝撃のあまり全員立ち上がっていた。

「――マジかよ!?」

 驚いて顔を歪める火神は、緑間にマークされていて何もできない。
 他の面々も吃驚して動けない中、パスを受けた高尾が素早くシュートし、また秀徳は2点を得た。

「残念だったな、黒子。その様子では橙野の言葉も、真っ赤な嘘か」

 戸惑いを隠せず、立ち尽くしている黒子を緑間は横目で見て、呟く。

「彼奴の失敗なんて初めてじゃ――」

 黒子が封じられるなどということは予想もできなかったのだろう、日向が言った。
 だが直ぐに、傍らの伊月に否定される。

「多分失敗じゃない」

「へ?」

「高尾も持ってるんだ。俺の鷲の目と同じ。否、視野の広さは俺より上の、『鷹の目』を」

「んなっ――!」

 それを聞いて漸く日向も、白美が言っていたことの意味、そして今目の前で起こっていることの種を理解した。

「黒子の使うミスディレクションは、黒子を観ようとする視線を逸らす。だが鷹の目は全体を見る能力――、黒子1人を観ようとはしていない。つまり高尾には、ミスディレクションが効かない!」

(Hawk Eye)

*前 次#

backbookmark
104/136