11Q 2
「それでは、これより誠凛高校対新協学園高校の試合を始めます!」
コートの中心に黒いユニフォームの誠凛と、白に緑のユニフォームの新協が対峙した。いよいよ、戦いが始まる。
「よろしくおねがいします!」
――試合開始。
ボールの奪い合いは火神VSお父さんで、僅差ながらボールを先取したのは新協だった。
(マジかよ信じらんねぇ! 火神が高さで負けた!!)
日向はそれを目を見開いて見上げ、火神は「コノヤロ」と歯を食いしばりながら着地する。
まずは、新協ボール。
谷村がボールをキャッチし、お父さんにリバースすればすかさず、お父さんはノーフェイクでジャンプシュートをしかけた。
(なめやがってッ!)
火神は闘争心をなじられ、ブロックの為に飛ぶ――が、ボールは火神の手に触れることすらなく、宙を通過しリングに落ちる。
「っきたぁ! たっけぇ! 先制は新協学園だ!」
外野の叫び。
お父さんは、馬鹿にしたように「っへ、ちょろいね」と吐き捨てた。
すかさず、「ドンマイ、取り返すぞ!」と日向から誠凛ボールがスタートする。
だが、シュートに向かって放たれたボールはあっさりと、お父さんの高さによって止められてしまった。
(――マジかよ!? あそこから届くなんて、んな、守備範囲どんだけ!?)
「デタラメだろ、あんなの」
「やっぱずりぃよ、外国人選手なんて」
「そんなことない。中学にはもっと高くてもっと凄いセンターがいたよ」
「えっ」
白美は思わず紫頭の事を思い出して口走り、それからそんなことを言った自分に対して苦笑すると、再びコートに意識を戻す。
勝機なら――見える。
そう、まさに目の前の――。
「誠凛さんってアレ? スポ根系?」
「っは?」
「いるんだよね、よくさぁ。助っ人外国人ズルいみたいな? 別にルール違反してねぇし」
「まぁ二人までならベンチ入りOkだからな」
「でしょ? 強い奴呼んで何が悪いの? 楽だぜ〜、アイツにボール回しゃ、勝手に点入ってくし」
この、相手のバスケへの態度。
そして、そこから垣間見える相手チームの薄さ。
(初戦だけあって、所詮、この程度の相手か――なんて。いや)
――伊月先輩に毒されたかもしれないと、白美は不意ながら思った。
(まぁどっちにしろ、うちのバスケがこいつら相手に負けるなんざ、有り得ねェっての)
口角があがる。
うちのバスケは、そんなつまらないものではないと、白美は笑ったのだ。
その証拠に、日向は谷村に向かって意志の籠った鋭い視線を飛ばした。
「楽かどうかはしんねぇけど、そのポリシーなら逆に文句ねぇな?」
「あ?」
「とんでもねぇ奴ならうちにもいるし。呼んだわけじゃねえんだけどな?」
そう言う日向の傍らでは、その言葉通り、とんでもないやつ二人組が闘志を燃やしている。
★
試合が再開する。
じーっと注がれる水戸部の半眼に火神はビクッと肩を揺らし、「大丈夫ッスよ!」とつかつか彼から離れて行った。
それを皮切りにして、日向や白美の突き通り、誠凛側の仕掛けが発動し始める。
――お父さんのシュートが、入らないようになったのだ。
2本、3本と放っても、リングに打つかって跳ね返る。
この現象を前にして、谷村は戸惑いながら考えた。
(急に精度がガクッと落ちてる――これは?)
眉を寄せる。
一方、リコは自信に溢れた笑顔でその様子を見守っていた。
「そう簡単には入らないわよ。なんたって、火神くんはお父さんに自分のプレイをさせてないからね」
「自分のプレイを?」
「届かなくてもやり方はあるよ」
――シュートを撃ち落とすのではなく、相手に落させる。やりたいことを、させない。行きたいところへ行かせない。相手を追い込み、プレッシャーをかけて、楽にシュートを打たせない。
火神の性格には合わない技術ではあるが、現時点ではこれが最も効果的だと、リコ、白美、水戸部は踏んだのだ。
そして実際、インサイトをガッチリかためてくるこの火神のディフェンスは、お父さんに対して中々の効果を発揮した。
「あっ、まただめだ! さっきから全然だぞ!」
「ぜんっぜんはいんねーし、外国人ってのも大したことねーな!」
現に、お父さんはまたシュートを失敗、外野からはヤジが浴びせられる。
(テキトー言ってんじゃねえよ、コートの中だと、すげぇ圧力なんだよ……!)
「それに、火神から放たれるプレッシャーはディフェンスの形によるものだけじゃない」
白美は、火神を見つめたまま1年2人にまるで教えるかのように、言葉をかける。
「2mをいまにもブロックしそうなジャンプ力。殺気ともいえるような集中力。生半可なプレッシャーじゃないよ。まぁ――キセキの世代はあの程度に押されたりしないけど」
だが、お父さんは、押し負けた。
「なんなんだよ、コイツ!」
放たれたボールは、またもやリングにあたって跳ね返る。
「また外したっ!」
「なんだよもうムカツク!」
お父さんは入らないボールに、最早苛立ちを隠せずにいた。
「腐るなよ、ブロックされてるわけじゃねえんだ、ディフェンス!」
谷村がフォローして、続く誠凛のオフェンスに備えて走るが、お父さんは苛立ったままだった。
「あんな風にイライラしていたら、できるプレーもできないし。まぁ――イライラしてるのは……」
白美はそこまで話していいよどみ、コートでお父さんの背中を睨みつける火神を見て苦笑した。
「こっちだってストレスたまんだよこのやり方は!!」
(――やっぱもっとスカッと倒さねぇと気がすまねぇ、から決めた!)
「ま、火神くんらしいっちゃらしいわね」
「はい」
リコと笑って頷き合う白美の前、何やら好戦的に笑った火神は、マンツーマンディフェンスの相手のお父さんに後ずさり気味に近づき、「ヘイ」と声をかけた。
「二つ言っとくぜ、1つは、この試合中にぜってーお前のシュートを叩き落とす」
「っ、そんなの、ないじゃん、できるわけ――こどもがいるチームなんかに、まけない!」
お父さんは火神をかなり警戒しながら、負けじと言い返した。
が、その途端火神は「もう一つは」と言いながら身を翻し、お父さんの傍から離れる。
「えっ?」
同刻、伊月が手にしたボールを迷わずお父さんの目の前に向かって飛ばした。
「ラッキー」
何も知らないお父さんは相手のミスだと笑うが、それも束の間。
ここで黒子が飛び出し、彼の手元からボールをその奥、お父さんとリングとの間にいた火神に繋いだ。
「はぁああああっオラァッ!」
「あっ!」
火神はそのまま、勢いよくボールをダンクし誠凛に2点を追加する。
「子どもも結構ヤバいかもよ!?」
そして、着地しながらお父さんに笑いかけた。
「ていうか、子供で話進めるの、止めてください!」
★
「え、何が今どうなった?」
火神のダンクが決まった直後、お父さんは意味が分からず愕然と固まった。
そこで谷村は「とにかく一本返すぞ!」とボールをパスする。
――が、黒子のカットによりボールは火神の手に渡り、先程のダンクから数秒と無いうちに再び誠凛に2点が加わった。
「嘘だろ?」
「なん……なんだよコイツら!?」
「マジかよ、スティールしたボールをそのままダンク!?」
「てか、いきなりダンク2連発って、予選一回戦だぜ!? おい!」
ざわっと沸く会場。
その空気からしても、最早流れも勢いも誠凛のものだ。
だが、感心していたのは観衆だけではなかった。
「っすげえな、マジ」
「ていうか、黒子ってこんなんだっけ?」
日向と火神は並んで走りながら、彼の背中を見つめ言葉を交わす。
考えられるとしたら――。
「こども扱いされたの、そんなに怒っちゃった〜?」
「そッスね」
「やってもないのにお前がいうな、って感じじゃん、ッスよ」
(they're awesome!)
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